共用スペースには今二人だけ。
僕は暖かいココア、隣に座る彼はアールグレイの紅茶。
蝉の鳴き声と温い風が窓から吹き込んでくる。
「ねぇ、例えばの話、しても良いですか?」
彼が不意に言った。
「もちろん、良いよ」と僕が言うと、彼はそう言ってくれると思ってた、なんて言うように微笑んだ。
「ほんとにもしもの話ですよ?…もし、私がいなくなったら、どうしますか」
予想外の質問に思わず狼狽える。
すぐには答えられなかったけれど、少し考えて答えを出した。
「捜しに行くよ。たとえ君がどこまで行っていても、もういなくなっていてもね」
そう答えると、暑かったのかローブを脱ごうとしていた彼の動きが止まる。
「…へぇ。なんかいがぁい」
「意外ってなに。失礼な…」
「だって、あなた現実から逃げるように創作にのめり込むんじゃないかと思うんですもん」
「あはは、そうかもしれないね。でも、捜すことは変わらないよ」
「そうですか。…良かった」
どうしてそう答えたのかを聞かれたけど、僕は答えなかった。
さよならを言う前にいなくなっちゃったら、悲しいからなんて言えなかった。
8/20/2024, 10:21:04 AM