踊るように
山間の小さなレストランは毎日大盛況だ。
素朴なメニューがほとんどで、カレーやナポリタン、オムライスなどを目当てに常連客がやってくる。料理の味が良く常連となる人も多いが、もう一つの理由は、料理を運んで来るスタッフにあった。
彼は無口だが真面目で一生懸命に仕事をする。けして愛想が良いわけではないが、踊るように料理を次々に運び華麗なダンスを見ているようだと人気となっていた。
「シュウ君。今日も華麗ね」
「あんなにクルクルしてもこぼれたりしないなんて。不思議〜。」
常連客は彼の高く上がる足やリズミカルなステップ、クルクル回るピルエットを楽しそうに見ながら料理の到着を待つ。
どの席からも温かく優しい笑顔や笑い声が溢れている。
でも。
みんなが知っている。
シュウ君がアンドロイドであることを。
本当は国立の大きなダンスホールで踊ることが、彼の本当の役目であることを。
なぜ彼がここにいるのかを。
アンドロイドとして欠陥品。
決められたダンスがプログラム通りに踊れず、別のダンスになってしまう欠陥品。
それでも、ここでは花形スターだ。みんなから拍手され、「すごい」「カッコイイ」と囃し立てられる。
山間のレストランに来れば、常連客から愛されている欠陥品のアンドロイドに会うことができる。今日も大行列だ。
僕は大きな劇場でダンスがしたい。
それだけなのに…。
9/7/2024, 11:17:08 PM