霜月 朔(創作)

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目が覚めるまでに


貴方の瞳が私を見つめて。
私の口唇が愛の言葉を紡ぎ。
貴方は私をそって抱き寄せ。
私は心の中で、呟きます。
『御免なさい』

夜の帳が下りている間。
それが私と貴方に許された時間。
誰にも知られる訳にはいかない、
酷く不道徳な、束の間の逢瀬。
私の左手の薬指に嵌められた指輪。

だけど。
幸せな時間は、ほんの僅かで。
貴方は夜のうちに私の部屋を出て、
自分の住処へと戻っていきます。

私は貴方が立ち去る気配に、
チクリとする胸の痛みに、
気付かない振りをして、
私は独り、朝を迎えるのです。

貴方はきっと、
昨夜の出来事なんか、
何も無かったかのように、
平穏な朝を迎えるのでしょう。

そう。
皆の目が覚めるまでに。
夜の闇の中、私と貴方の間で、
密やかに交わされた愛の言葉は、
幻と消えていくのです。

8/3/2024, 6:38:53 PM