柔良花

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 どおぉん、と何かが落ちたような音に目が覚めた。何事かと寝起きのまとまらない頭で考えていれば、少し遅れて光を放つ窓の外と再びの轟音。なるほど、雷が来ていたのか。
 寝る前にぼーっと眺めていた天気予報では「明日は小春日和で暖かい」と言っていた様な気がするが、この様子ではどうだろうか。合間に聞こえる雨音に耳を傾けながら何とはなしに考える。まあいいか、どうせ休日は家に引きこもるのだから。窓の向こうの空模様よりも、まず気にすべきは胸元で震える茶色毛玉だ。

「大丈夫、みーちゃん。怖くない怖くない……」

 雷が落ちる度に小さく「ひゃあ」と鳴き、擦りついてくる猫の背を何度も何度も優しく撫でる。みーちゃんはとても臆病で怖がりだ。自分のしっぽにびっくりするのは日常茶飯事。ベランダにカラスや鳩がやってくれば一目散に逃げていくし、私がくしゃみしただけでしっぽをタヌキみたいに膨らませていた。
 それでいてシャイなのであまり鳴かない。決まってびっくりしたり、今みたいに怖さに耐えられなくなった時に限って小さく自己表現をするのだ。
 
 正直言えば私も雷は得意じゃない。人間は生まれながらに大きな音に恐怖を抱くものらしいが、例には漏れず私も小さい頃はみーちゃんみたいにお母さんの布団に潜り込んで、一緒に寝てもらっていたものだ。花火大会も、見るなら遠くからが良い。

 今落ち着いていられるのは、たぶん、みーちゃんのおかげ。怖がりで弱い自分をみーちゃん越しに撫でているのだ。成長して、身体もプライドも大きくなった私の代わりに泣いてくれるみーちゃんが、とても愛しいから。

「……大丈夫、大丈夫だよ」

 優しく、口ずさむようにみーちゃんの背を撫でれば、少し心が軽くなった気がした。



【怖がり】

3/17/2023, 4:30:40 AM