彼女はいつも笑っていた。
どんなに辛くても、悲しくても、笑っていた。それが彼女の強さだった。それが彼女の魅力だった。
僕は彼女に惹かれた。初めて出会った日から、僕は彼女に目が離せなかった。彼女の笑顔に、彼女の優しさに、彼女の勇気に。
「好きだ」
そう言って、僕は彼女に告白した。なんの捻りもなくて面白味に欠けた告白。だけど彼女は、驚いた顔をした後に涙を滲ませて快く受け入れてくれた。
「ありがとう」
それから僕らは付き合い始めた。毎日会って話したり、手を繋いだり、キスをしたり。普通のカップルと変わらない幸せな日々だった。
ある日、彼女から電話が来た。
「今から会える?」
彼女のささやかな願いに答えられない彼氏はいない。
急いで家を出て、約束の場所へ向かった。途中で渋滞に巻き込まれてしまったが、何とか時間内に到着した。
「え……?」
そこで見た光景は想像もしていなかったものだった。
事故現場だった。
赤信号を無視した車が歩道に突っ込んできて、何人もの人を巻き込んでいた。その中に見覚えのある姿が───。
「そんな……ッ!」
叫んで駆け寄ろうとしたが、すぐに警察官に止められた。
「危険です!近づかないでください!」という声がぐわんぐわんと脳内でこだましながら耳に入ってくる。
でも、僕は止まらなかった。
「ぁぁ……ああ」
力なきその身体を強く抱きしめる。
冷たい。もうそこに僕の知る彼女はいない。
「ごめんなさい」
涙目で謝る警察官の顔を見て、
「遅すぎました」
救急車から降りてくる医師の声を聞いて、
現実を受け入れるしかなかった。
彼女の安らかな瞳は、一時の夢をみるように穏やかでただ昼寝でもしているだけじゃないかって錯覚してしまう。
幻想を見ていたのは僕の方だ。夢のような甘い時間を過ごさせてくれていたのは僕の方だ。
夢から覚めた。彼女はもう居ない。
僕は静かに嗚咽を漏らしながら咽び泣いた。
3/15/2023, 9:43:12 AM