「タイムマシーン」
荒野にポツンと佇む白い箱。その箱の中には最新鋭の実験設備が設置されている。入口こそ味気ない箱形だが、中に入ると地下を贅沢に使った広い実験都市として整備されている。地球温暖化が進み、もはや地上で生活することは困難になった地球では、今や地下で生活することが一般的になっていた。
限られた空間。完全に管理された社会で娯楽はデジタルに制限され、外の世界に興味を持つ人間がいないようにと、かつての美しい風景を描いた作品は規制されている。
そんな地下社会に、かつての地球の姿に魅了された男がいる。男は研究者として閲覧を許された文献の中に、かつての地球の姿を綴った文学作品を見つけたのだ。青い空。白い雲。海。山。季節や時間でその姿を変える雄大な自然に男の心は囚われた。夢中になって規制から逃れた文学作品を読み耽った。
そうして外の世界に魅了された男は、とうとうタイムマシーンを使って過去へ行くことにした。幸い男にはタイムマシーンの設置されている部屋へ入る許可があった。その使用方法も知っていた。しかし、タイムマシーンの私的利用は大罪だ。過去を変えれば今が変わってしまう。今よりも良くなればまだ良いが、悪化するようなことになれば人類が滅亡してしまうかもしれない。
私利私欲で研究機材を使用したものには厳罰が下される。タイムマシーンの私的利用に対してのそれは、帰還の禁止であった。タイムマシーンでの時間移動では行きも帰りも現在からの操作が必要になる。移動先から帰るためには、研究室のタイムマシーンを操作してもらう必要があるのだ。
帰還の禁止とは、その操作をしないだけでなく、帰還及び回収に必要な座標のログすらも消去してしまうということだった。それはもはや、現在からの存在の抹消に等しく、この罰は明示されるだけでこれまで受けたもののいない、すなわち抑止力として設定されたものであった。
男はこの罰のことも当然知っていた。それでもかつての美しい地球が見たかったのだ。もう二度と現在に帰ってこられなくても、二度と家族と会えないとしても。過去の地球で無戸籍者として野垂れ死んだとしても。
男はタイムマシーンに乗り込んだ。誰にも何も伝えずに、深夜に一人で、タッチパネルを操作して、過去の地球へ向かう。目指すは2026年。片道切符の時間旅行だ。
1/22/2026, 11:14:54 AM