山の天気は変わりやすいとはよく言うが、まさかここまで悪天候に見舞われるとは予想外であった。
ぽつりぽつりと雨が降ってきたと思えば、バケツをひっくり返したような豪雨へと変貌した。
容赦なく全身に叩きつけられる雨粒の威力は思いの外凄まじく、痛みすら感じるほどだ。
また間断なく降る雨粒が目隠しとなって視界が非常に悪くなったのは、何より大きな痛手であった。
山頂を目指すよりも脇道に逸れた方が賢明だろうと判断し、目についた藪道を突き進んでいく。
藪道は思ったよりも浅く簡単に通り抜けてしまった。それと同時に豪雨はその勢いを急速に失い、やがて何事もなかったように止んだ。
通り雨で助かった、と安堵するのも束の間、目の前に現れたのは豪奢だが不気味な雰囲気を放つ洋館の姿。
トンネルを抜けると雪国であった──という書き出しが有名な小説のタイトルはなんだったろうか。
もしも、通り雨が抜けると怪しい洋館が聳えていた──という一節で始まる小説があったならば、どんなタイトルが相応しいだろうか──?
あまりにも異様な光景を前にしたせいなのか、そんな取り留めのない思考が浮かんだ。
テーマ【通り雨】
9/27/2022, 12:45:38 PM