・命が燃え尽きるまで
第〇〇回異種族会議は、河原で行われた。議題は「死」。
短命代表カゲロウと、長寿代表ゾウガメの対談の形をとる。
ああ、かったるいなあ…
カゲロウの誰かがつぶやいた。それもそのはずだ。開始時刻を三十分以上すぎているのに、対談相手のゾウガメは姿を見せないのだから。貴重な寿命の三十分、イラつくのは当然だった。
すでに、何匹かのカゲロウは、こっそりと会議を抜け出している。残るカゲロウが最初の半分ほどになったとき、ゾウガメは姿を現した。
「やあやあ、こんばんは。みなさんお揃いで」
すみません、の一言もないのか。不快になるカゲロウ一同を横目に、司会者が話し出す。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。今後のよりよい異種族交流のため、今宵は…」
「まあまあ、堅苦しいのは抜きにして。始めましょうや」
イラつくけれど、この申し出はありがたい。カゲロウの一番手である僕とゾウガメは、向かい合う形になった。司会者が言う。
「では、お互いに死について、どのようなイメージを持っておられるか、交流してください」
死の、イメージ。なんだろう。
人間の言葉を借りれば、注射の順番を待っているような気持ち、だろうか。一人づつ、名前が呼ばれて、待合室にいる人数は減っていく。次は自分だ、という緊張感とあきらめ。
もっとも、注射を打ったこともなければ病院に行ったこともないカゲロウの身だ。ちょっと違うかもしれない。
僕が一言目を探しているうちに、ゾウガメが口を開いた。
「そうですねえ…考えたこともないですねえ…ぶらっくほーるみたいな感じでしょうか。じゃなかったら地球征服に来た宇宙人。つまりは、絶望と恐怖の権化ですかね」
まあ、そんなこと起こるわけないですけどね、とゾウガメが笑う。起こるわけないものを、死に例えるのか。
僕は瞠目する。死んでいった仲間を思う。ゾウガメな言うように、絶望と恐怖を味わっていたんだろうか。そんなのは、辛すぎる。そんなことを思って、僕は死にたくない。
「僕らにとっては…」
視界がぼやけていく。ゾウガメの悲鳴が、イヤに遠い。仲間の声。こちらは義務的だった。
「おつかれさまです。リーダー。そしてゾウガメさん、二番手は私が務めます。よろしくお願いします」
9/14/2023, 10:53:56 PM