紅月 琥珀

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 彼の名前が消えたその日に、私はそれ以前に何か変わった事や別の行動などを取らなかったかと考えていた。
 授業中も休み時間もずっと。その間に彼と少しやりとりしたりして、そういえば⋯⋯と1つだけ思い当たる事を思い出す。
 彼の存在が私以外の人達から消える前の日に、私は近所にある願い事を叶えてくれると有名な神社でお参りをしていたのだ。
 もう、それ以外には思い付かず⋯⋯もしもこれが原因じゃなかったら諦めるしかない。そう思いつつも放課後、早速その神社に行きもう一度お参りする。
 彼との生活が戻るように⋯⋯全部元通りになるように。
 私は神様にお願いしてから帰宅する。
 それからその日に終わらせる事は全て終わらせて、あとは就寝するだけになったのでベッドに入りLINEで彼にメッセージを送る。
 昼にやりとりした中で、やはり彼の方も私の名前を思い出せないらしくて、改めてお互いに自己紹介して何とかやりとりを続けていた。
 昨日の今日で名前が無くなるなら、もしかしたら明日は本当に記憶から消えているかもしれない。
 そんな不安から、私はLINEで彼に自分の気持ちを伝えた。
 ずっと好きだったって。
 本当はこんな風に伝えるつもりは無かったけど、もしも忘れてしまっても伝えておきたかったから。
 彼からの返信を待っている間、昨日と今日とで気持ちが張り詰めててあまり寝付けていなかったのがたたったらしく⋯⋯気付いたら意識を失っていた。

 翌朝起きてからやってしまったと後悔したけど、何故か彼の事を覚えている。それどころか彼の名前も全て思い出せるようになっていた。
 どういう事だろうとLINEを開くと、彼のアカウントも空白から元通りになっていて、しかもメッセージには昨日の返事が書かれていて―――嬉しくて泣きそうになるのを堪えつつ、朝食食べて身支度を整えてから学校へ向かう。
 教室につくとみんなあの2日間の事が嘘のように彼と話している。驚く程呆気なく終わったこの不可思議な騒動は、もしかしなくても私のお願いに対して神様が計らってくれたのかもしれないなんて、らしくないことを思ったりもした。
 でも、だからといって2度と体験なんてしたくないけども。

 そうして彼と約束していたカフェに行き、美味しいデザートに舌鼓を打って少し遠回りして歩く帰り道。彼から改めて告白された。
 LINEじゃなくてちゃんと伝えたかったって少し照れたように言われて、嬉しさと愛しさが溢れて抱きついてしまう。
 いきなりだったのにちゃんと受け止めてくれた彼に、私も気持ちを伝えて⋯⋯2日だけだったけど、居なくなって怖かった事も多分自分のせいだとも伝えたら、なんと! 彼も同じ神社にお願いしに行っていた事が判明して、明日は神社にお礼参りだねって笑い合いながら話した。

 2日間と言葉にすると短い時間だったけど、この不思議な体験をしなければきっと今も動けずに付き合うなんて夢のまた夢だったと思うと、少し感慨深くもある。
 大好きな彼が消えた後に、繋がった想いを末永く⋯⋯2人で育んでいけるように、大切にしていこうと彼とLINEでやり取りしながらそう思うのだった。


3/14/2025, 12:50:06 PM