ミミッキュ

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"鏡の中の自分"

「…っと、これで全部だな」
 開院準備を完了させ、診察室を出て居室に入り、白衣を掛けたハンガーを手に取ってハンガーから外し、壁に戻すと、白衣を翻して腕に通す。軽く襟を整えるとクローゼットを開けて、扉の裏の鏡を見ながらしっかり整える。
 ふと目線を上げ、鏡に映る自分を見る。前髪を撫でると髪先が、さらり、と解ける。
──前髪、少し伸びたか?
 と、思いながら目線を少し引いて顔全体を見る。メッシュのように顔の両サイドに生える白髪は変わらず。だが顔付きが少し違う気がした。少し前の自分では考えられない、少しの安らぎを覚える顔付き。
 流石に五年前と比べたら表情が固いが、当時の自分とあまり変わらない顔付きだった。
──いつの間にか、またこんな顔できるようになったのか……。
 不思議そうに頬を指で撫でると、口角を上げる。当時の自分と同じ高さまで、とはいかない。当時の半分以下の高さ。何とかそれ以上上げようとすると、頬がプルプルと震えてしまった。
──やっぱり駄目か。
 真顔に戻して、また頬を撫でる。
 少し前の自分ではできなかった笑顔を、五年前の自分のようにはできずとも、少しでもできるようになったのだと思うと、何だか少し嬉しい気もする。
「あっ……」
 ふと時計を見る。もうすぐで病院を開ける時間だ。正面玄関の扉の施錠を開けなければ。
「……っ」
 両頬を叩く。パシンっ、と小気味良い音が部屋に響いた。
「……ふぅ」
 一息吐いて顔を引き締め身を翻す。長い白衣の裾が、ふわりと舞い上がる。卓上の引き出しを開けて正面玄関の鍵を手に取ると、居室を出て廊下を歩いた。

11/3/2023, 11:56:51 AM