【流れ星に願いを】
濃藍の空から、白銀の星が次々に降り注ぐ。まるで絵物語にでも描かれたかのような幻想的な光景を眺める君の横顔は、流星群の瞬きにチカチカと照らされていた。
「願いことでもするの?」
あまりにも熱心に星々を見つめているものだから、思わずそう尋ねていた。と、そこでようやく君の瞳が俺を映し出す。振り向いた君の動きに合わせて揺れた艶やかな黒髪が、星の光に染まって青みがかった銀色に輝いて見えた。
「まさか! だいたい、星が流れるこの短い時間で三回も願いごとを唱えろって、それもう叶えるつもりの全くないひとの要求の仕方じゃない」
「まあそのくらい制限をかけないと、世界中からの願いでパンクしちゃうんじゃないの」
「だって神社の神様は、同じ環境でも頑張ってるよね? それをできないって言うなら、流れ星の怠慢だよ」
フォローは一応してみたけれど、ばっさりと切り捨てられた。相変わらず遠慮も容赦もない子だ。
一歩、君の足が俺へと踏み出される。少しだけ近くなった距離。すぐ下にある君の顔が、真っ直ぐに俺を見上げる。星々の光を反射する大きな瞳が、まるで夜空そのもののようだった。
「それに、本当に叶えたい願いは。誰かに頼ったりせず、自分の手で叶えるものでしょう?」
――ああ、やっぱり君は誇り高く美しい。その在り方に、どうしようもなく惹きつけられる。君の辿る物語の終着点を見届けたいと、そう望んでしまう。
神の末席に名を連ねるこの俺が、たった一人の特定の人間に心を動かされるなんて、仲間たちに知られればどれほど笑われることか。
「俺の前でそれを言う度胸は、素直に褒めておくよ」
君の頭に手を置いて、くしゃりとその髪を混ぜ返した。そうすれば君は、髪が乱れるんだけどと不機嫌そうに唇を尖らせる。
出会った時からずっと、俺の正体を知りながらも決して俺に縋らない君の強さが、俺には眩しくて仕方がないんだ。捧げられる願いを叶えて、叶えて、叶え続けて、心も身体も疲弊しきった俺の前に突如として現れた、星のように美しい人の子の額へと、友愛のキスをそっと落とした。
4/25/2023, 12:13:38 PM