「付き合ってください!」
と僕が君に頼み込んだ場所は、夜景が綺麗な橋の上だった。
だから、プロポーズもその場所がいいと思って、わざわざ君を呼び出した。……のに。
「ここからの景色って、こんな感じだったっけ」
「まあ、数年あれば街も変わるからねえ」
あの日の景色は、どこにもなかった。
【探しても、あの日の景色は見つからない】
「え、本当にここだったっけ」
「うん、間違いないと思う」
あの日の美しい景色の中でプロポーズしたいという僕の思惑が打ち砕かれたことなど、君には知る由もない。
「あの日の景色は、もっと光に溢れていた」
「そうだねえ」
「それに、空だってもっと星が瞬いていた」
「今日も、天気はそこそこいいけどね」
「っていうか、この橋ってこんな低い位置にあったっけ。もっと高いところから見下ろしていた記憶があるんだけど」
「さすがに気のせいじゃない? 橋の高さは変わんないでしょ」
ショックを受ける僕と違い、君はあっけらかんとした様子だ。そもそも、あの日の景色を美しいと思っていたのは、僕だけだったのかもしれない。少し、寂しい。
「でも、私は嬉しいよ。あの日、君に告白してもらえた思い出が、ここにはある。またここに連れてきてくれて、ありがとうっ!」
君が笑う。世界が、あの日の景色と同じ色で輝きだす。……ああ、そうか。
君の前に広がる景色を輝かせるのは、世界じゃなくて、僕の役目なんだ。
「……ねえ」
跪いた。取り出した小箱の中に、あの日以上の景色が広がっている。と、信じたい。
7/9/2025, 8:39:31 AM