静かであったはずの隣の部屋から話し声が聴こえる。格安アパートの薄壁。学生の頃の隣人はどんどん様子がおかしくなっていった。
最初はおそらく通話の会話音。それまでは余りに静かであったのでそこで初めて壁が薄いことに気付いた。察するに友達とどのアニメのキャラクターが最強かを議論しているようで思わず笑ってしまった。
その段階ではまだ微笑ましかったのだが次第にこちらが僅かでも音を立てると壁を殴ってくるようになってきた。どうしようもない生活音にすら反応して殴ってくる。その当時の自分もおかしくなっていてそれに慣れていた。
今思えば即引っ越し安定なのだが怠惰の自分はずるずるとしばらく居座ってから流石にと管理会社に報告と質問をした。以前は静かだったので新しく住んだ人なのかと。
そう聞くとなんと入れ替わったのではなくずっと同じ人が住んでいるのだといると答えられた。驚き。どうやら何かをきっかけに隣人は豹変したらしい。
謎が増えてからある日の夜。また隣人の会話音が聴こえてきてどうやら酒を飲みながら友達に君も読むべきだと本を勧めているようだ。
「これを読んでマジで俺は変わった。」
「マジで深い。ほんとに読むべき。」
なんだその本は。何だなんだと思わず聞き耳を立てると、
「嫌われる勇気。」と聴こえてきて僕は笑った。
いや、勇気出すとこ履き違え過ぎやろ。隣人が豹変したきっかけを解明できたと同時にそのしょうもなさにある種の感動まで芽生えたことを未だに憶えている。
※その後撮った音声を証拠に報告して解決しました
9/23/2024, 12:04:31 AM