300字小説
最後の嘘
この国では光と闇、生者と死者の国の間に黄昏の国があると言われている。その国で死んだ者は一時、留まり、未練を払って死者の国に逝くと言われていた。
黄昏の国は時折、夕暮れ時に生者の国に繋がるとも言う。
思わず斧を取り落とす。夕暮れの森の切株に座っていたのは、昨年、風邪を拗らせて逝った君だった。
伸ばした腕がすり抜ける。君は俺を見上げ睨んだ。
『いつまでくよくよしているの。そのせいで私、黄昏の国で出来た好きな人と一緒に逝けないじゃない』
君の眉が上がる。嘘をつく時の癖だ。でも……。
「俺のせいで逝けないのは本当なんだな」
君が俺の頬に口づける。
「幸せになってね。……さようなら」
その姿がふわりと夕風に乗って消えた。
お題「光と闇の狭間で」
12/2/2023, 12:07:39 PM