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『ありがとう、ごめんね』

⚠二次創作、ifストーリー

雲一つない快晴。僕は、自分の足元で咲いている桜を見下ろす。真上から見る桜は、地上で見る桜とまた一味違い、美しい。
生前なら、こんな角度から桜を見ることはできなかっただろう。
そう、僕は幽霊になったのだ。

僕が死んだのは数週間前、フランスの砂浜だった。
あまり死ぬ瞬間の記憶はないのだが、うつ伏せに倒れた自分を呆然としながらただ見下ろしていたことは覚えている。
その時にはもう、体重も胸を貫かれたような痛みもなくなっていた。
自分が幽霊になったのだと気づいた僕は、死ぬ間際に強く願ったことを叶えるべく、海を越えて日本に来た。
日本にはたくさんの思い出があったが、僕が一番最初に向かったのは、ここ、スリジエハートセンターだ。
そう、僕の最期の願いは、センターを囲うように並んでいる桜の花を見ることだった。

生きているうちに見ることはできなかったものの、満開の桜を一目見ることができてよかった。
しばらく桜の花を眺めて満足した僕は、そう思いながら立ち去ろうとする。
しかしその時、視界の端に映ったものに気づいて、僕は立ち止まった。
桜の木の下に佇む、二人の医師。
一瞬目を疑ったが、間違いない。
「__ジュノ、征司郎!」
名前を呼んで駆け寄ろうとして、あ、と気づく。
僕の姿は、多分二人には見えない。
その証拠に、声が聞こえない距離じゃないのにも関わらず、二人は見向きもしなかった。
分かってはいたが、いざ目の前にすると、少しショックを受ける。
手紙には書ききれないぐらい、彼らと話したいことはたくさんあった。
でも。
僕の死に囚われるぐらいなら。

僕は、桜の前立つ二人を目に焼き付け、空へと飛び立った。
桜の花言葉はフランス語で、
「ne m'oublie pas」“私を忘れないで”
僕が桜に込めた願いだった。
でも。
やっぱり、忘れていいからね。
ちゃんとお別れできなくてごめんね、ジュノ。
征司郎、覚えててくれてありがとう。

桜が咲いたらまた来るからね。さようなら。



12/9/2024, 7:51:28 AM