小さい頃、何だかよく分からないけど憧れたものってある?
私はね、色々あるよ。
例えば、わたがし。夏祭りでは一番最初に探してたっけ。
あと、瓶に入ったラムネ。普通に飲むより美味しく感じない?
それから、糸電話。
今なんて無線が当たり前だし、ビデオ通話もできちゃうくらいなのに、なぜか、糸で会話ができるのが不思議だったなあ。
そうそう、実際に、糸電話にハマってたこともあるんだよ。
隣の家に住んでるヨウちゃんと2人で、紙コップと凧糸を使って糸電話してたっけなあ。
私達は部屋がちょうど向かいあっていて、糸電話をするのに絶好の位置関係だった。
親に怒られて泣いた日。友達と喧嘩した日。
テストで良い点が取れた日とかね。
毎日ではなかったけど、1週間に1度くらいは、糸電話で話をしてた。
ヨウちゃんとは学校ではあまり話さなかったけど、この時間は私の宝物だったよ。
小学5年生くらいから始めた糸電話は、中学1年生の秋くらいに終わったの。
それでも2年以上は続いたと思うとかなり長かったかもね。
あれは、私に初めての彼氏ができた時だった。
相手は委員会が同じになった男子バレー部の先輩。
「そうなんか。ほんなら、もうこんな子どもじみたことももう辞めんとな。」
「え?」
そう言ってヨウちゃんは糸電話にハサミを入れた。
ヨウちゃんは、薄く笑っていたけど、ひどく傷ついたみたいな顔をしていた。
学ラン姿のヨウちゃんが、カーテンの奥に消えていくのを今でも覚えてるよ。
半分になった糸を見て、私はヨウちゃんの気持ちに気づいてしまった。
3ヶ月ほどで、先輩とのおままごとみたいな恋は終わりを告げたけど、ヨウちゃんとの糸は元には戻らなかった。
ヨウちゃん、今日はね、目玉焼き作ったんだけど、黄身が双子だったよ。
ヨウちゃん、中学から私立に行ったエリコ、結婚するらしいよ。
ヨウちゃん、今日は、会社の先輩にこっぴどく叱られたよ。
ヨウちゃん、またいつか私の話聞いてくれるかな。
11.絆
3/6/2023, 1:59:34 PM