莉白

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下に下に堕ちて行くそいつをみて僕はただ身震いをしただけだった。他の何もせずただ身震いをしただけだった。小さくなって行く彼の体はもう僕が知っている声を発してはいなかった。甲高くキーキーとした声で助けを求める声。だがその声ももう僕の耳には聞こえなくなっていた。僕はその場で束の間動けずただぼーっとしていただけだった。ハッとして我に帰った僕はすくむ体を無理やりに動かしてどこかに行く当てもなく助けを求め走った。僕の胸は縄で締め付けられたような感覚に陥った穴に堕ちて焦っているのは彼だというのに僕は自分のことのように焦りを感じていた。僕は走るフォームが乱れようと関係なく走り続けた。何分も何十分も走り続けたが疲れることもなく走り続けた。どちらかと言うと僕は疲れを感じれるような状態ではなかった。僕は急に立ち止まり、どっと押し寄せてくる疲れを気づかないふりをしてあいつの堕ちた穴に帰って行った。僕はそこに倒れ込むように堕ちた。
【落下】

6/18/2024, 1:00:35 PM