「……どうしたの?」
止める理由が無いから、無言で上着の裾を掴んだ。
別に、飲みに行きたきゃ行けばいい。
いつ、どこで、誰と何をどうしようが個人の自由だ。付き合いがあるのも理解している。ただ、ここ最近家を空けていたから家の中が少し物寂しいとか、隣にいなかったからベッドの中が少し寒く感じただけ。
特に気にするほどの事でもない。……ほんの些細なことだ。
だから、別に行ってもいい。そうしたところで、どうせ傷つくこともないのだから。
かと言って、生み出された心の波音は『行かないで』と確かに言っていた。素直に言えないのは昔からで、かと言って何もしないわけでもなく。勝手に体が動き、自ずと意思を伝えてしまっていた。
上着を掴んだそれはただの反射。だが、その行動は理由も言葉もない、精一杯の『行かないで』。
10/24/2023, 11:38:18 AM