薄墨

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目を開ける。
こんもりと温かい布団の間で身じろぎする。
布団の外はまだ暗く、寒い。

枕元の寒い空間に手を引き延ばし、デジタル時計を引き寄せる。
文字盤には白い文字で、4:26と表示されている。

うん、まだ寝れる。あと二時間くらいは
そう判断して、デジタル時計を枕の下に放り出す。
それから再び布団の中に潜り込む。
頭につけられたチューブの先端の、金具がかちゃん、と音を立てた。

この世には、忍者も武士も巫女もいまだに存在している。
この真実を、一般人は一笑にふすが、既得権益を持つお偉方は当然のように活用している。
国益のため、自分の利益のため、会社や平和の維持のため、ただ単なる慈善活動のため…

占星術や予知夢で、未来を予知する巫女は、国にも社長にもちゃんと存在する。

でも、予知夢を見る巫女は、予知夢を制御はできない。
巫女の血を継ぐ巫女は、ある歳に予知夢を見始めたら、その後一生、夢を見るたびに予知夢を見る。

しかし、その全てが使えるわけではない。
自分の未来の何気ない1日の夢を見たり、災害や戦争後の手がかりも救いも残っていない夢を見たり、“使えない”未来にチャンネルがあってしまうことも、よくあるからだ。

だから、巫女は大抵、大人数で暮らす。
その団体の中で一番、経験と実力が豊富な年配の巫女が、おばば様、となって、見た予知夢や占星術の結果をまとめるのだ。

私が予知夢を見たのは、八歳の時。
巫女候補の子供たちが集められる、乙女舎で、起きたあの寒い、結露が窓にびっしりと真っ白についた冬の日。

国益を守るために集められた巫女の寝台の、その一つの、白い布団にくるまって、目を開ける夢。
ふかふかの羽毛布団に潜り込み、二度寝をする夢だ。

私は目を開ける。
見慣れた天井。
毛布がくしゃりと歪む。
今まで好きだったキャラクターが、毛布の上で笑っている。
時計の文字盤は、7時を指している。
おばば様が、みんなを起こす声が聞こえている。

私は未来の記憶を辿る。
そう、今日だ。
白いふかふかの羽毛布団に潜り込む未来。
デジタル時計で4:26を確認する未来。

私は未来の記憶を辿る。
そう、今日なのだ。
八歳二ヶ月の今日なのだ。

未来の記憶を辿る。
もうじき、おばば様がやってくる。
そして、しわくちゃな優しい笑みで私に言うのだ。
「おめでとう。昨晩、予知夢を見たんだね」
それから私は、国益のために、白い羽毛布団の寝室をもらうのだ。

私は体を起こす。
おばば様を迎えるために。

部屋の窓には、結露が真っ白についていた。

2/12/2025, 10:44:40 PM