『はなればなれ』
輝きを失った目、悲しさが滲み出た表情、
喪失感からの涙。
普段、表情に出ない親戚も今は泣き崩れている。
俺は「絶対に泣かない」と決めたのに。
周りの大人が泣き崩れていたら、瞳の奥に溜まった
涙なんて、我慢できずに溢れてしまうだろ。
顔を出し、棺桶の中を覗く。そこには、冷たくて、
綺麗な花に包まれた、両親がいた。
何度、「父さんっ」「母さんっ」と呼んでも、
いつもの微笑みの混じった返事は返ってこない・・・・・・。
冷たくなった二人の手を握って、自分の体温で
温めようとしても、二人の手の温度は上がらない。
何をしても生き返ることはない、とわかっている
はずなのに。
どうしたら二人が生き返るのか、ただ、それだけを
考えた。
今日は、両親の葬式だ。
両親が棺桶に入る姿を見るのは、もっと先だと思って
た。
俺はまだ、高一だよっ・・・・・・。
俺の両親は、駅で電車を待っていた時、隣で線路に
突き飛ばされた子どもを救おうと線路内に入ったと
いう。
突き飛ばされた子どもは救うことができたが、
両親は電車が来る前に、線路内から脱出することが
叶わず、電車に轢かれてしまった。
二人共、その場で即死が決まった。
両親は、結婚してからずっと行けていなかったから、
新婚旅行に行く予定だったんだ。
二人で楽しい時間を過ごしてもらいたくて、
俺は新婚旅行の参加を辞退した。
だから、約1ヶ月は両親と離れ離れになることに
なっていた。
でも、まさか「はなればなれ」が永遠になるだなんて
想像もしてなかったよ・・・・・・。
11/16/2024, 12:00:08 PM