ミミッキュ

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"それでいい"

 昼過ぎ、春物の靴を買いに来た。
 既に選んで会計を済ませたらしい飛彩が歩いてくる。
「まだ悩んでいるのか?」
「ん……」
 正直、サイズがある物ならどれでもいい。だがこの棚にある靴全て、サイズがある。
 もういっそ指差しで選ぶか。どれにしようかな神様の……。
「これはどうだ?いつも履いている物と似たデザインで良いと思うが」
 真ん中の段の、俺の右側に鎮座していた靴を手に取って提案してくる。
 確かに今履いている靴と似たデザインで、履きやすそうだ。それに、近くに置いてある靴達と比べて軽そうでもある。
「じゃあそれで」
 しゃがんで飛彩が手に取った靴と同じ番号の、自身に合うサイズが記された箱を手に取って立ち上がる。
「……本当にそれでいいのか」
 訝しげな顔を向けて聞いてきた。
「どういう意味だ」
「そのままの意味だ。貴方はこだわりとか、重要視する所とか無いのか」
「ねぇ。『これがいいな』って選んでも、サイズが無きゃ意味ねぇだろ」
「確かにそうか」
 俺の言葉に頷きながら、小さく呟く。
 足のサイズと身長は比例している。
 身長が平均より高いので、見本としてディスプレイされている物はまず小さくて合わない。
 なので、気になるデザインの物を見つけてもすぐには手に取らず、棚の下に積まれている箱から合うサイズの物を探さなければならない。
 だが、平均より大きなサイズは無い場合が多く、 探す手間がとてもかかる。
 だから、こだわりなど無い方がいい。
「この棚にある靴は全部サイズがある。だから迷ってたんだよ」
 そこにお前が提案してきた、と続けると、少し俯かせていた顔を上げてこちらを向き、俺が手に持っている箱を一瞥する。
「なら、本当にこれでいいんだな?」
「あぁ」
 お前が選んでくれた物だし、とギリギリ聞こえていないであろう声量で言うと、ここで待ってろ、とレジへ向かい会計を済ませ、靴が入った袋を片手に戻る。
「……では、帰ろう」
「だな。他にこれといった用事はねぇし」
 緩慢な動きで店の外に出て、ゆっくりと街の中を歩いた。

4/4/2024, 2:12:56 PM