最初から期待なんてしていない。
だってここは「そういう」場所だから。
「今宵もお主と話をしに来たぞ」
なのに、最近太客になった此奴はどこか変だ。
高い金を気前よく払う割に、初めて会った時から指一本触れてきやしない。
畳の上にごろんと横になり、肘掛けに腕を乗せてぷかぷかと煙管から煙を吐き出す白髪の男。
畜生、バカにしやがって。
「御前様……」
自分の着物を肌蹴させ、淡く桃色に色付く粒をこれみよがしに見せつけてやるも、鼻息で一蹴されただけだった。
「ワシはの、御為倒しが嫌いでな」
他ならぬお主とはそのような関係になりたくないのじゃよ
一気に吹き付けられた煙。いきなりのことで噎せてしまう。
「心の通わぬ夜伽はせぬ」
また来るよ。
男はそう呟くとゆらりと立ち上がり、そのまま襖を閉めて部屋を出て行ってしまった。
酒どころか、茶すら飲まずに帰ってしまった太客。
あの男の腹の中が全く読めないからもどかしい。
下手な憐れみなぞいらない、毎回そう言おうとするのに都度逃げられる。
期待してしまった後の巨大な絶望感は自分が一番よく分かっているから。
2/4/2025, 2:34:43 AM