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『未来』

 大変っす。
 ビッグニュースっす。
 俺、実はチートもらっちゃったんすよ。
 今朝のことっす。
 寝てたら、夢に神様が出てきたっす。

「お前はいいやつだ。
 お前は今までたくさん人のためになることをした。
 だから褒美に、特別な力をやろう。

 しかしお前はとんでもない馬鹿だ。
 未来を見る力を与えるてやるから、これでもう少し考えて行動しろ。

 これからは、その力を使い自分のために生きることだ。
 もう騙されるなよ」

 その時は『変な夢見たな』と思ってたんす……
 けど、外に行くと他人の未来が見えるようになっててビックリしたっす。

 神様ぱねえ。
 俺、バカだからいろんな人に迷惑かけたのに、こんなバカにもすごい力をくれるなんて……
 俺感激したっす

 こんなすごい力、俺だけで独り占めするのはもったいないっす。
 この力で人の役に立つっす。


 ◆

 というわけで占い師になったっす。
 未来を見る力で、たくさんの人を幸せにするっす。
 キャッチコピーは「あなたの未来、見通します」っす。
 頑張るっすよ。

 初日からさっそくお客さんが来たっす。
 張り切るっすよ。
「大好きな彼氏に、たくさんお金が必要って言われたんだけど、楽にお金稼ぎできる方法を占ってよ」
「お金、渡さない方がいいっす。
 お金もらったら、彼氏はトンずらするっす」
 女の人、怒って出ていたっす。
 どうしたんすかね。

 気を取り直して次行くっす。
「ちょっといいなと思っている人がいるんだけど、相性教えてくれる」
「DV男だから、やめた方がいいっす」
「テストの問題教えて」
「教えても忘れるから意味ないっす」
「その水晶玉売って」
「売らないっす」

 なんか誰も来なくなったっす。
 なんでなんすかね?
 ネットの口コミを見たら、『あそこに行くと不幸になる』って書かれていたっす。
 驚いたっす。
 店を出している場所が、まさか逆パワースポットだったなんて、夢にも思わなかったっす。

 人を幸せするためにに占いの店を出したのに、不幸にするなんて意味がないっす。
 場所を変えるべきっすかねえ。

 どうするべきか数日悩んでいたら、久しぶりにお客さんが来たっす。
 そんな気分じゃないけど、ちゃんと占うっす。
 それがプロってもんす

 今回のお客さん、は珍しい親子三人での来店っす。
 中学生くらいの女の子と、そのオヤジさんとオフクロさんすね。

 オヤジさんが、恐い表情で俺を見るっす。
「あんたの占いは、怖いほど当たると聞いた。
 どうしても占ってほしいことがある」
 こんなに真剣に聞かれたのは初めてっす
 これは気が抜けないっすね

「この子の事だ。
 来週手術があるんだが、成功率が低いそうなんだ。
 結果は分かるか?」
「死ぬっす」

 オフクロみたいな人が泣き始めたっす。
 女の子も泣きそうな顔でこっちを見てるっす
 女の子の泣き顔は苦手っす。
 慌てて、解決策を言うっす。

「大丈夫っす。
 死なない方法があるっす」
「ツボを買えとでも?」
「ツボ?
 何の事っすか?
 病院を変えるだけでいいっすよ」
 俺の言葉にオヤジさんが目を丸くするっす。
 そんなに変なこと言った覚えはないんすけどね。

「この子は難病で、特別な設備のある病院でしか治療ができないんだ。
 病院を変えるということは、この子の治療ができなくなるんだぞ」
「設備関係ないっすね。
 担当の医者が、手術の失敗に見せかけてその子を殺そうとしているっす。
 保険金殺人すね」
「バカな。
 評判のいい医者だぞ
 それに担当の医者とはいえ、赤の他人だぞ。
 保険金なんて受け取れない」
「保険のオバちゃんもグルっすね」
「ありえん!
 でまかせじゃないか」
 オヤジさんは、俺を嘘つきのような目で見るっす。
 今まで何度もされた目っすけど、いつまで経っても慣れないっすね。

「うーん難しいっすね。
 あ、セカンドオプ……オペ、……オポ?」
「セカンドオピニオンって言いたいのか?」
「そうっす。
 帰りにこのまま違う病院に行ったらすぐ分かるっすよ」
 俺は三人の顔を見てはっきりと断言するっす。

「そこの医者が断言してくれるっす。
 ただの貧血だって」

 ◆

 数日経ってまたお客さんが来始めたっす。
 なんでも「よく考えたら悪いのは占い師じゃなくって相手の男よね。疑ってごめんね」て言われたっす。
 誤解が解けて良かったっす。

「次の人どうぞっす」
「お久しぶりです」
「覚えてるっす。
 迷子の犬を探してる人っすね」
「違います」
 間違えたっす。
 どうも未来が見えるようになってから、物覚えが悪くなったっす。
 ……前も特に物覚えは良くなかったすね。
 気のせいだったっす。

「以前娘の手術のことを伺ったものです」
「ああ!
 ニュース見たっすよ。
 医者と保険のおばちゃん逮捕されてたっすね」
「ああ、全て君の言う通りだったよ。
 娘が貧血なのも含めてね」
 オヤジさんはにこりと笑うっす。
 笑顔が似合わないけど、恐い顔よりはいいっす。

「娘さんは元気っすか?」
「ああ、新しい病院で治療を受けている。
 前よりも元気なったよ」
「それは良かったっす」
 自分が関わった人が幸せになるのは嬉しいっす。
 占い師やって良かったっす。

「それ相談なんだがね。
 実は私は警察官なんだ。
 日本の平和を守るため、君の力を貸りたい。
 もちろん謝礼は支払う」
「断るっす」
「ふむ、理由は聞いてもいいだろうか?」
「俺は、みんなの役に立ちたいんすよ。
 警察に協力する余裕がないっす」
 俺の返答に、オヤジさんは味のある顔をしたっす。
 俺、変な事言ったすかね?

「……警察の協力するのも、社会やみんなの役に立つと思うが?」
「じゃあ協力するっす」
「軽いなあ。
 なんか不安になってきた……」
 オヤジさんは、今度は表情が無くなったっす。
 忙しい人っすね

「早まったかなあ……
 この先大丈夫なのだろうか」
「ご安心くださいっす
 未来に不安があるなら聞いてくださいっす。
 『あなたの未来、見通します』がキャッチコピーすからね」

6/18/2024, 1:31:36 PM