茜屋 葵

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お題『何気ないふり』

︎ 硬質な黒鉛の音が響く、昼下がりの教室。
︎ 昼食直後の小テストはあまりにも億劫で、退屈だ。隙間時間にあれほど確認してきた単語もすっかり頭から抜け落ちてしまったのか、過半数を超える空欄を残したまま僕は頬杖をつく。幸いにも睡魔に襲われることはなかったのだが、集中力は削がれてしまって続きを書く気力は湧かない。戯れに鉛筆をくるくると回転させてみた。しかし湧かない。もう諦めてしまおうか。そう溜息をつけば、それに返事をするかのように咳払いが聞こえてくる。
︎ 視線を上げると、教卓の前には赤ペンを回す先生の姿がある。え、と小さく声を漏らせば、先生は口の端をほんの少し上げて、回していた赤ペンを机の上へ下ろす。そして左腕に付けている腕時計をこつこつと叩き、やがて僕と同じ姿勢で頬杖をついた。
︎ 肝を冷やした僕はただちに居住まいを正す。
︎ さり気ない一挙一動ではあるけれど、おそらくアレは警告。何気ないふりをした、集中しなさい、のサイン。

3/30/2023, 7:10:01 PM