たそがれ
今日飲みに行かないか、という声が広がり始めたのを察知して早々に職場を出る。自分もお呼ばれするかは甚だ疑問だが、建前が得意な会社だ。一声かけるくらいはするかもしれない。断ればマイナスポイント。聞かれなければプラスマイナスゼロ。僕は数学が得意だ。
10月の空は高くて薄い。すぐに色移りして闇に染まる。日光性変形症の僕には油断ならない季節だ。黄昏時は近い。
家に帰る余裕がないので、冬の砦である河川敷に向かう。到着を待っていたかのように日が沈み始める。何度見ても、夕日は日中より大きいと思う。錯覚だと主張する科学者は観察することからやり直した方がいい。
川を覗き込むと、揺れる水面の向こうで僕の顔が少しずつ崩れていた。体から力が抜けていくような感覚が伴う。日が沈む速度で僕の顔かたちが変形していく。
真っ暗になった河川敷で、僕は大きく伸びをした。ずり落ちそうなズボンを押さえて、ベルトを締め直す。袖が長いから捲っておく。シャツは少し大きいけれど、ご愛嬌ということで。スマホに映した僕の顔はすっかり幼い。我ながら、こんなにスーツが似合わない男も珍しい。居酒屋なんか入れるもんか。
朝日の呪いを夕日が解く。そんな体質だか病だかが増えているらしい。巷では配慮だの何だの言われているが、僕としては放っておいてほしい。この体はそんなに不便じゃない。
足取り軽く河川敷を出る。帰ったらシリーズものの続きを読むんだ。
10/1/2024, 4:52:26 PM