届かない……身長計のアレに。
時が止まったまま色褪せていく地域。
森の勢力を取り戻していく時間の繰り出しかた。
その中で、借りぐらしのように、一匹の不思議な生き物がいた。
綿毛のようなふわふわな生物。ポメラニアン似の顔は毛の中に埋没するようになっている。体躯は丸っこい。喋らない。人以上に長く生き、人の作り出した神のように謎めいている。新種登録されていない、シーラカンスレベルの生きすぎた化石。
現在は廃校に住んでいる。森の侵食が激しく、限界集落としての感覚を喪われつつある。校庭も校舎もその中も。みな緑色をした自然の前では障壁にならない。
「……?」
ふわふわの生物は、疑問を表現する。首を傾げている。
廃校の、昔は保健室だったところを住処としている。
辺りは散らかっていて汚いが、ふわふわな生物は気にしない。汚れが特段つく様子もないし、人気は失せている。危険は無いに等しい。
人間に見つかっていないだけで、たぶん神獣か何かなのだ。トトロみたいな奴なのだ。
届かないアレとは、身長計の可動する部分のことである。たぶん、最後の子供の身長を測ったまま放置されているらしい。ふわふわの生物の身長は、それに届かないでいる。
「!」
耳を生やせばよいのかな?
そう思って、ぴょこんと耳を生やしてみた。
隠し階段が現れるように。
しかし、届かない。
「?」
場所が悪かったようだ。もう少し中央に生やせば……。
耳をぴょこぴょこ動かして、なんとか届けと念じるも、その姿でさらに猫に近づいてしまった。
5/9/2025, 9:19:13 AM