ななしのごん

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きらめき

 その村は、きらめきに満ちていた。

 魔法使いたちが住む村は、すべてのものが美しい。石の煉瓦に混ざる、魔力を含む宝石の粒子が太陽に照らされてきらりと光る。屋根はどっしりとした丸太と、家ごとに違うカラフルな煉瓦が使われている。家の窓から下がる花たちは、まるで宝石のように美しい色合いである。魔法使いが織った布も、一本一本の糸は家庭で育てた花が使われている。風に吹かれて光が射すと、風が光って見えるようになる。
 魔法使いたちは、遥か遠くの物語に出てくるものとは違う。精霊と話し、自然から力をもらう。それを駆使して物を作ったり、植物を育てたり、薬を調合して暮らしている。この国ではそれが大変重宝されている。
 旅人の私からすると、すごく羨ましい光景だ。私が住んでいた場所は、自分からするとすごく色褪せている。機械、蒸気、石炭。煙と歯車でいっぱいの、モノクロの街に嫌気がさして旅に出ようと思った。魔法使いの村は、私の中で一番目の目的地である。

 石畳の上を歩いていると、道でお婆さんに声をかけられた。私が長距離を歩いてきたことがわかるという。指さされたベンチで少し休んでいなさいと言い、彼女は家の中へと入っていった。大人しく座っていると、しばらくして青く透き通ったガラスのグラスを持って出てきた。さまざまなスパイスを、この土地で取れる果物と合わせたジュースだ。冷たくて爽やかで、不思議と懐かしい味がした。
 彼女と話していて、この村でもやはり不便や不満はあるという。私の街が羨ましい。一度訪れてみたいとも言った。私は驚いた。こんなに輝いた、綺麗な村に住んでいてもそう思うのかと。
 もしかして、私たちは自分達にないものを羨んでしまう時にあの「きらめき」を感じるのだろうか。きっときらめきが当たり前の生活になると、またその隣にあるきらめきが欲しくなる。それが、人という物なのだろうか。
 お婆さんは続けて、その「きらめき」を追いかけるのが旅人なのだとも言った。私には、そのきらめきがわかる「目」があると。彼女に手を握られると、温かさが手から体へと流れて行くのがわかった。そうして、体が軽くなったような気がした。早く次の場所へ行きたい。

 不思議な魔法をかけてくれたお婆さんとは、そこで別れた。軽くなった体が、前へ前へと動こうとしている。その前に、この村のご飯を食べよう。

9/4/2023, 12:45:12 PM