―花束―
花束を選ぶのに、また時間がかかった。
君は「どれでもいいよ」って言うくせに、
渡すと必ず、色の並びをじっと見る。
それから少し間を置いて、
「悪くないね」って言う人だった。
だから今日も、
その間を思い出しながら迷う。
派手すぎないもの。
でも地味すぎないもの。
君が「落ち着く」って言いそうな色。
歩きながら、会話を続ける。
最近のこと。
どうでもいい失敗。
昔みたいな、意味のない話。
君はきっと相槌を打って、
天使の梯子みたいな笑顔を向ける。
ここに来る道は、もう覚えた。
待ち合わせに遅れそうなとき、
君が先に歩いていた道。
「置いてくよ」って言いながら、
結局すぐ隣に戻ってくる。
今日も同じように歩く。
花束を抱えて。
君の歩幅を想像しながら。
風が吹く。
花が少し揺れる。
「寒くない?」
問いかけるが風に攫われたのか返事が聞こえなかった。
僕は足を止める。
少しだけ、間を置く。
君のほうを見る癖が、まだ抜けない。
それから、
花束を抱え直して、
そっと、地面に置いて手を離す。
明日、贈る約束だった花束を。
明日、贈れなくなった花束を。
明日、君に贈るはずだった指輪を。
明日、君に伝えれなかった言葉を。
もう届かないはずなのに、わかってるのに、
それでも君に愛しています。と伝える。
昨日、あまりにも早すぎる天の迎えが来た君へ。
題名:【拝啓 君へ――】
2/9/2026, 11:01:33 AM