—とある天使は非日常を楽しみたい—
『天界に帰ってきなさい』とお母様からお告げがあった。人間の世界に舞い降りて、もう三日になる。
「今度はあれ食べたい!」
「まだ食べるのかよ……」
この世界に来た時、羽根の操作を誤り、頭を打って意識がなくなっていた。そんな私を見つけてくれたのが、今隣にいるサカモトという人間。
この世界のいろいろな知識をたくさん教えてくれる良い人間だ。大学生という種族らしい。
「だって美味しそうなんだもん」
「せっかく遊園地に来たのに、アトラクション何も乗ってないよ……。まぁ良いけど」
今日は遊園地という場所に連れてきてもらっている。いつも静かな天界とは違い、賑やかで楽しい。
「あれ食べたら片っ端から乗るからね」
「多分、全部は無理だよ」
『チュロス』という食べ物を食べた後、彼の手を引いて、走り出した。彼を連れ回し、結局全てのアトラクションを回ることができた。
気づけば空は真っ暗だった。
「疲れた……、もう歩けないよ」彼の弱々しい声が聞こえる。人間は脆弱だなと思った。
「しょうがないなぁ、私が家まで送るよ」
「送るって……、電車で帰るんだよ」
この世界では『天使』は空想上の生き物らしい。
だから口で説明しても無駄だと思ったので、彼を抱き抱えて飛んで見せた。
「えっ!飛んだ⁈」
「今日も楽しかったよ。またこれからもよろしくね」
風が彼の髪を揺らし、遊園地の灯が足元に流れていく。
「天使って本当だったんだ」
天界に帰るのは、もう少し先でいいと思う。今はただ、この世界を思いっきり楽しみたい。
きっとお母様には怒られてしまうけれど。
お題:透明な羽根
11/9/2025, 8:05:26 AM