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夜明け前に目が覚めた。先輩の家に行く夢を見た。
夢の中でも先輩の顔を思い出すことは出来ない。あの時は顔を見て喋れなかったから。ただ声だけが鮮明で、起きた時に、夢の中でもう少し話せばよかったなと思った。夢が過去の回想であるように、夢の中の私は当時の口下手に戻っていた。もし、今話せたら。
タオルケットをかけ直して、去年のことを思い出す。
先輩と再会した日。驚くほど一般的な喋り方で、女の子の後輩ならこう喋るだろうといった感じで、当たり障りの無いことを話した日。それでも、その中に一摘みだけ真実を、今まで誰にも言ったことのない「哲学科に進みたい」ということを話した。話さなければ良かったと思う。叶わなかったから。それに、言えなかったことが沢山あった。なぜ今さら私に話しかけたのか、私が貴方にしてしまった仕打ちを忘れたのか、なぜ掘り返すような真似をするのか。
それでも、何かしらの決意が生じての行動だったに違いない。それを分かっていた。分かっていながら、それを表面だけで流していた。私はあとどれだけ冷たい人間になれば気が済むのだろう。
先輩は私を卒業旅行に誘った。ああ、先輩はまだ私が「遠くに行きたい」と言った時のことを覚えているんだと思った。遠く。私の遠くは、誰も来ることの出来ない場所。愛する人でさえも拒絶する場所。
先輩は「またね」と、私は「じゃあね」と言った。
無邪気に未来を信じられる貴方が羨ましいと思った。

9/14/2024, 2:56:37 AM