◤カーテン◢
誰もいない教室。大きな窓とカーテンの間。二人きり。
横に並んで、開け放った窓からグラウンドを見下ろす。
「……あ」
隣から小さく声がした。視線を向けると、嬉しそうに微笑む横顔。
ランニングをする陸上部の集団の中に、お目当ての先輩を見つけたようだ。
「よく飽きないね」
この道を通るのは、日に一度だけ。
その一瞬を見るためだけに、毎日毎日ここで待っている。
「好きな人を見るのに、飽きるなんてないでしょ」
「……まあ、そうだね」
真っ直ぐすぎる言葉が、痛い。
「そっちこそ、こんなことによく毎日付き合ってくれるね」
緩い風が吹いて、カーテンとやや長めの髪が揺れる。
外を向いていた目がこっちを向いて、二秒。視線を反らす。
「オレも、同じことしてるから」
グラウンドから目を逸らさないまま、いつもより小さな声で呟く。
視線の先に、その人はいないけれど。
「えっ、誰!?」
「ひみつ」
「なにそれズルい!」
何を言われたって教える気はない。
いつか、気づくまでは。
「わっ……」
突然強い風が吹いた。煽られたカーテンが滑って、大きく開く。
陸上部の集団はもう見えない。
二人きりの時間はおしまいだ。
10/11/2023, 2:28:57 PM