あれから二人で電車に乗って、遠くの街へ来た。電車から降りたとき、君は少し不安そうだった。
「少し、こわいかもしれないけれど、たまには別のことをしてみるのも悪くないよ。」
道を踏み外したり、慣れないことをするのにとても恐怖があるのだろう。眉間の皺が濃くなる。
「そうかしら?……いつものわたしが間違ってるって言うの?」
私たちをここまで乗せた電車は次の駅へと出発した。訝しげな目を向ける彼女の眉間を指で伸ばす。
「そうじゃないよ。ただ普段しないことを試してみてさ、それが君に合うかもしれないじゃない?」
少し、表情が崩れた。きっと、試すということも、あまり好きじゃないだろうな。君はいつだって本気だから。
「試してみる……ね……。」
「そう、それくらい気楽に受け取って欲しいけど……。そうやってまっすぐ受け取る君も、とても真摯で私は良いなと思ってるよ。」
私が彼女のそういうところが好きだからこそ、無理はしてほしくない。その素敵なところが彼女自身を追い詰めることにはなってほしくない。
「だから、そうあり続ける君は強くて美しいけれど、もし負担があるならひと休みして、また君らしい強さが見られたらいいなと思ってる。」
「変な人。」
柔らかい、でもまだ憂鬱との間を行き来するような曖昧な笑みで私を見る。
「そうかもね。」
期待と不安とは別に、彼女がどうありたいかを尊重したい。
「とりあえず歩こうか。何がしたい?」
駅のホームから改札を通って、知らない街を歩き始めた。
2/28/2023, 4:55:46 PM