『I LOVE...』
「あの、俺、君のことが」
好きだと言いかけたのに、彼女はその場から逃げるように走り出した。彼女は陸上部の短距離選手なのでそれはそれは速く走り、俺は陸上部の長距離選手なので追いつけないかもと思ったけれど彼女とは帰る方向が一緒なので行く先は同じなのだった。次第に距離が縮まり始め、スタミナ切れで肩で息をする彼女に辿りつくことができた。落ち着くまで待ったほうがいいだろうかとか、また逃げ出したらどうしようとか悩んでいるうちに彼女が言う。
「好きって言わないで」
これまで通りにお弁当一緒に食べたい。これまで通りにカロリーメイトはんぶんこしたい。これまで通りに一緒に帰りたい。好きって言われたら、これまでみたいな付き合いじゃなくなってしまうなら、好きって言ってほしくない。そう彼女は言った。
「……好き」
「なんで言うの!」
「いやめっちゃ好き」
「やめて!」
耳を塞ぐ彼女の手をそっと掴む。
「好きって言っちゃったけど、たぶん俺ら全然何も変わらないよ。今まで通りにお弁当食べるしカロリーメイトはんぶんこするし、一緒に帰ると思うよ」
「……ほんと?」
「本当」
耳から手を離してくれた彼女は少し涙目だ。
「だから、俺のことどう思ってるのか、教えてほしい」
加えて徐々に顔が赤くなっている。彼女が小さな声で話し始めるのを、いつまでも待っていられる。
1/30/2024, 3:49:18 AM