⚠︎めちゃ長い大妄想です注意!
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①星に願いを
夜を裂くように走る海列車の小窓から、ぽつぽつと小さな灯りが零れている。海面が光を反射して星屑の様に瞬く。
甲高い音をあげながら駅に列車が止まった。
もうすっかり暗いだけの夜中だと言うのに、カーニバルの町と名高いここはどうやら、その名に恥じないだけの騒々しさを中心街から伝えていた。
夜空へと伸びる赤や黄色の光の柱が忙しなく動き、破裂音を響かせる火の花が絶え間なく上がり続ける。
向かいの席に座っていたカリファは窓の外をチラリと見やってから、立ち上がって目の前の私を見ると、「早くこんな仕事終わらせましょう」この町は好きじゃない、と呟く。
彼女はよほど、闇からかけ離れたこの町が嫌いなようだった。少しだけ高い所から聞こえるため息を聞いて、早く終わらせてしまおうと同調する様に小さく呟いた。
「私もこんなところ、大嫌いだよ」
任務は至って簡単で、主賓の要人を3人ほど平和の為に消えてもらおうというだけだったのだが、この町サン・ファルドは持ち前の能天気さで何の騒ぎにもならず仕事は終了した。
極彩色の羽を着飾った女達は、祭りの裏で人が死んでいるなんて気付きもしなかっただろう。
「終わっちゃったね」
思ったより早く終わった任務に、空いた時間は何をしようか考えながら帰りの護送船に向かう途中で、隣を歩く金糸の髪の彼女に話しかけた。
「ええ。良いことよ。仕事が早く終わるのは。」
そう言って笑う彼女の顔には、疲労の色が見え隠れしていた。今でさえ余すことなく照らすライトは闇に生きる彼女には強すぎた光で、彼女にとってはこの国自体が疲れる対象なのかもしれない。
暗がりで彼女の、固まりかけた返り血と同じくらい冷たい顔を盗み見ていると、視界の隅に先程とは違う光が過って目線を上げる。藍色の空を沢山の光が滑り落ちていた。
「あ、流星群。」
知識としてしか知らなかったはずのそれが、流星群だとわかったのはあまりに強い憧れか、その光の美しさからか。
彼女の目には遠くで燃える宇宙の塵がどう映っているのだろう。一つ、また一つと落ちてゆく光を眺めていると、不意に彼女がこちらを見て、「少しだけ寄り道しましょう」と弾んだ声で言うものだから、「いいよ」と返す自分の声まで上擦ってしまう気がした。
暫く歩いて辿り着いたのは中心街から大きく外れた丘だった。街を一望できるその場所からは、煌々と輝く街並みがよく見えた。どうやら長いこと盛り上がっていたパレードは終盤に差し掛かったようで、一段と光る大きなフロートが牽引されている。あの住民たちには頭上で瞬く星など見えないのだろうか。光の粒を引き摺るようにして落ちて行く流星を、しばらく二人でぼんやりと見つめた。
「何か願い事した?」
彼女はすっかり油断していたようで目を僅かに見開いて私を見た。街からの僅かな明かりが彼女の珍しい幼げな顔を照らす。
「私は何も。あなたは?」
聞いたは良いものの、自身も何も考えていなかった事に気付いて焦る。思い付いたものはあったけれど、それを言うには少々憚られた。
「うーん、内緒。言葉にすると叶わなくなるって言うから」
「あら、私の願いは良いのね。…でもそんなに真剣に考えた願いなら、自分で叶えたらいいじゃない」
彼女はおどけたように言った後、すぐに付け足すように「冗談よ」とわらう。
私も彼女も、そんな事が自由にできないくらいわかっていた。だからきっと、私達の願いも、あの星達のように誰にも届かないまま消えてしまうのだ。ずっと前から分かりきった事を今更考えて、無性に虚しくなった。
私達の未来の無さに。
あの日、私がCP9に配属された頃にはカリファは既にそこに居た。文字通り"能力"を買われた私とは違う、彼女は一体何の能力を買われたのかなんて、無機物の様な冷たい美しさを持つ彼女を見れば一瞬で分かった。元CP9上がりの官僚を父に持つ彼女は、瞬く星を編んだような美しさの彼女はそれでも、世界の為の犠牲者でしか無かった。彼女は世界の闇をその小さく細い体で受け止めていた。たった8人の犠牲でしか成り立たないこの世界は、馬鹿らしいほどに上手く回っている。赤い星は近い内に死んでしまうと言うけれど、それはまるで私達みたいだと思った。
無言で流れる星と光を眺めていると、夜の底に沈む沈黙をパレードの終了の音が攫うように掠める。
「そろそろ帰りましょう。」
私は名残惜しい気持ちを隠して彼女に手を引かれるままに立ち上がり、来た道を戻った。長く潜入捜査で会えてなかったのを示す様に固く指を絡められた手の隙間からは長いこと放って置かれた茶色く濁る血が滴った。
「ねえ」
「どうしたの、カリファ」
「結局、あなたの願いはなんだったの?どうせ叶わないなら言ってしまって良いじゃない」
本当は、願った瞬間からもう諦めているのだけど。それでもやっぱり口に出すのは躊躇われて、言葉を詰まらせた。だって、暗殺者にしてはどうにも感情的でロマンチシズムに溢れた願いだったから。
「そうだな…私、流れ星になりたい」
彼女は不思議そうな顔をした後、「どうして?」と聞いてきた。
「もし本当に流れ星になれたら、君の願いを叶えてあげられるでしょ。それに、死んだら君の所へ降って帰って来れるよ」
「馬鹿ね」
彼女は可笑しそうに笑って繋いだ手に少し力を込めた。
「流れ星になんてなる前に願いを叶えて」
「なんだ、残念。」
「何を期待したのよ」
「秘密」
彼女の無邪気な笑顔を見て私も笑った。黒と赤だらけの君がいつか…なんて無責任で自己中心的な願いは、口が裂けても言えなかった。
「メイ」
「なに?」
「大好きよ」
きっと能力以外は弱い私は彼女達と違ってすぐに死んでしまうだろう。けれど、もう少しだけこの光景を見ていたい。名前のないわたしに名前をつけてくれたひと。愛しいひと。
赤い星よりも早く燃える私を好きだと言う彼女の未来を、陳腐にも流星に願ってしまうくらいには。
「私もだよ」
君だけに幸せが降り注げと、次に見られるかも分からない星の雨に、何度目かも分からないくらい願った。
CP9の在籍する世界政府直轄の司法機関、エニエスロビーが麦わらの一味に陥落してから数時間。
元CP9のメンバーたちは、海に浮かぶレールの上を満身創痍で歩いていた。カリファは疲れで滲んだ視界の隅で、同僚の背中越しに藍色の中に流れる光を見つけた。
ひとつ、またひとつ。数え切れない程燦燦と降り注ぐ星。
それはいつか見た景色によく似ていた。
「流星群…」
ぽつりと声に出すと、傷の痛みではない痛みで泣き出しそうに顔を歪めた。
「嘘つき。私の願いを叶えてくれるって言ったじゃない…」
いるはずだった隣の星は、もういない。
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②約束
まるで、星から降ってきたような不思議な少女だった。
「星を見てみたいんだ」
昼も夜もないこの島で、星空に憧れてやまないのだと宣う自身よりも幾分か小さな背の少女を、私は不思議そうに見つめていたと思う。その左右非対称の、黒と灰の瞳に私の姿だけが映っていた。傷によるものだという灰の瞳が月の様に光を反射した。
「きみは星を見た事はある?」
「ええ。」
CP9としてエニエス・ロビーに配属される前は候補生として、毎晩のように月の光を受け訓練を受けていた。見上げるまでもなく星空は見えたけれど、それが美しいと思ったことはなかった。
「そう。羨ましいな」
まだ任務にも赴いたことの無い彼女の視線はいつの間にか遠くへと向けられていた。きっと彼女には星の海が見えているのだ。それは私が知らない世界だ。
「いつか一緒にみようね」
海にも似た青髪を靡かせながら小さく呟く彼女を見る。政府の科学者達により無理矢理に能力を授けられたらしい彼女は、この島以前の記憶がないと言う。
着実にその身を鉄とコード類に支配されてなお彼女の声音には微塵の揺らぎもなかった。機械的な合成音声ではない、生身の人間のそれに酷く安心した。
「きっともうすぐ見えなくなるから」
「どうして?」
「視力が落ちてきてるんだ。きっとすぐ見えなくなる」
だからその前に一緒に見よう。
夜空をみようだなんて平和でくだらない約束をする彼女に呆れたように笑った。けれど、その優秀な脳を持つ彼女がそう言ったのなら或いは、本当にただそれだけの平和がありえるのではと思ったのだ。
「そうね。」
たった一言だけの愛想のないその返事に、太陽が沈まない島の塔の窓辺で、彼女は輝くばかりの笑顔で笑っていた。
彼女の言うには、数年に1度たくさんの星が降る日があるのだと言う。何度も見た眩しいだけの星空が本当に少しだけ、楽しみになったことは内緒だ。
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③はなればなれ、盈盈一水
水の中から見たから見た空は、満天の星空の様に煌めいているらしい。呑気にもそんな事を考えながらさらに深いところまで沈んだ。たった一口果実を食べたくらいで嫌うなんて、海はなんて薄情なんだろう。
「これは?」
目の前に差し出された鈍く光る白銀色の塊を見て、上司に対していることも忘れて思わず疑問が口から飛び出す。
エニエス・ロビーを追われてからすぐ復帰したカクとルッチに遅れるようにしてCP0に配属されたカリファは、白い制服に袖を通して早速新しい上司に挨拶に来ていた。その男はデスクの向こうからカリファを見下ろしたあと、手に持ったそれを手前へ押しやった。
何かを象っていたらしいそれは処々溶けたせいか原型を留めておらず、カリファにはそれが何なのか検討もつかない。
「元CP9補佐、コード520の部品だ」
君は随分と親しかったようだから、と再び差し出されたそれを今度は恐る恐る両手で受け取った。掌の中で小さく転がすと、かろうじて金属だったことがわかる。それも今や半分以上が融解してしまっていた。
彼女は負傷した一部分の脳の記憶媒体を機械によって補われていると聞いていたが、どうやら本当にそうだったらしい。
手の平に収まる彼女の遺体は、そうだと知った途端温かみを帯びたように感じて、彼女の身体の一部だったのだと思えた。
「これを私に?」
「あぁ。君に渡してくれと頼まれていたんだ。」
それは、誰から。
なんてわざわざ尋ねなくても分かった。きっと彼女は初めからこうなると分かっていたのだ。貴重な実験体としてある程度融通される特権を、何も、こんな事に使わなくても。
渡されたそれを握りしめたまま動けないでいると、目の前にいる上司の男はこれで頼まれた話は終わったとカリファの様子など気にせず話を続けた。
それは早速始まる護衛任務の話だったり、同僚となる人の話だったりしたが、頭は手の中の鉄くずでいっぱいでろくに話が入ってこない。カリファは握ったままの手を開くこと無く、ゆっくりと顔を上げて男の目を見た。
「最後に一つだけお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「なんだね」
「なぜ、私がCP0への昇格を?」
「…君の父親が、そうせよと」
カリファはサイファーポール本部のある島の海岸に来ていた。任務のためではない。ただ少しの間ここに居ようと思っただけだ。
見渡す限りの海原はどこまでも青くて、まるで世界に自分一人しか居ないようだった。波打ち際まで行き足を浸す。水面は太陽の光を受けて輝いているものの、冷たさと力が抜ける感覚に直ぐに足を引っ込めた。砂浜に腰掛けて膝を抱える。そのまま横になりたい気分だったが、髪に砂がつくのが嫌だったので緩く前に下ろして膝に頭を乗せた。
空を見上げると雲ひとつ無い快晴で、この天気なら今日中には雨が降ることはなさそうだと考える。目を閉じて、懐かしい光の雨を思い出しながら掌の鉄くずを握り締める。
「バカみたいね。私は実力なんかじゃなくて、ただ、父の権力で戻れただけだなんて…」
「あなたも馬鹿よ。諜報員が私情で同僚を庇うなんて」
「本当に星になって帰ってくるなんて、大馬鹿じゃない…」
バスターコールが終わってドアから出た時、彼女はどこかへ逃げて生きているのだと信じていた。肉片すら残さずただ瓦礫のあるだけの景色の中に消えてしまった彼女は、鉄とニッケルで出来た屑に変わって目の前に現れた事で、その微かな希望さえ潰えてしまった。
もう二度とあの、海に似た色合いの彼女は見られないのだと思い知ってしまって悲しくなった。
「…シャオメイ、結局、あなたの本当の願いはなんだったの?」
問いかけても返事はない。
返ってくるはずの声はいつまで経っても聞こえなくて、手の中にあった鉄くずがさらに重みを増したように思えた。
瞑った目に少しだけ水分が滲んだ気がして1人で笑う。人の身で兵器になるように鍛え上げられた怪物が、たった1人の為に涙を浮かべるなんて。
『私、流れ星になりたい』
私の願いを叶えてくれるんじゃなかったの。
どんな地獄だって隣にさえいてくれたら、それだけで良かったのに。それだけが願いだったのに。
目を開けるとすっかり日は暮れていて、煌めく星空が海に反射して視界を埋め尽くしている。
さっきとは打って変わり静寂に包まれる海岸で、カリファは抱えていた頭を離して立ち上がると海に向かった。
波に合わせて揺らぐ光の粒を見て、何故だか無性に憎らしくなって来て、ずっと握っていた鉄くずを放り投げるとそれは一瞬きらりと光ってから暗闇に吸い込まれて見えなくなった。
「うそつき」
黒と青の波に攫われた鉄くずをしばらく眺めていると不意に背後から声を掛けられて振り向く。
「ここにいましたか。緊急の任務が決まりました」
そこには同じく白い制服に身を包んだ政府直属の隊員がいた。
「任務内容は現地での報告と中継、天竜人の保護です」
「了解。ところで任務地は?」
「エレジアです」
「…そう。」
カリファは白服の男に続いて海岸を後にする。もう振り向かなかった。鉄くずになった彼女の記憶はどこへ眠っているかなんて、彼女が自身の一部を託した先がカリファだったのなら、きっとそういうことだ。だからあの鉄くずは彼女ではなかったし、もうカリファには必要なかった。
金髪が風に揺れて白い肌と誰かの髪色にも似た青い耳飾りが顔を出す。人はそれを弔いとも呼ぶが、彼女は決してそうは呼ばない。
「あなたのこと、案外好きだったわ。」
大好きなはずの風呂の中で、
愚かにも溺れ死のうとしたことがある。
ほんとうは、何度も死んでやろうと思っていた。こんな風に記憶に縛られ続けるくらいなら青の中で消えてしまいたかった。彼女の髪によく似た海に嫌われるのはなんだか悲しくて憎くて堪らない。それでも溺れた中で仰ぎ見た水面の煌めきが、水面の泡立ちに反射する虹色の光が、忘れられないあの日の空に似ていたから。
もう少しだけ生きてみたいと思ったのだ。
私が生きている限り彼女の思い出が生きるなら、
何にも残らない彼女の墓くらいにはなってやりたいから。
終
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ハッピーENDじゃない夢小説も書いてみたかっただけ。
これはワの国編が始まる前くらいから書き始めた物なので色々捏造があります。
filmRED公開前まではあまり描かれなかった彼らの人生に思いを馳せながら書いていました。もしシャオメイが本当に強くても救うことも変えることも出来ないんだろうなと思ったのでせめて心の傷を負って欲しい。でも全部忘れて幸せにもなってほしい。
諜報員として兵器並みに鍛えられるCP9の紅一点として存在しているカリファ。彼女の父親は上の立場のため、娘である彼女はわざわざ危険な仕事をしなくても済んだのでは?ではなぜこの道を選んだのか。それは彼女が女としていいなりになる人生よりも命の危険があっても仲間と働く方が良いと思ったからでは?という妄想の元生まれた作品です。
実はifの続きもいくつかありますが、愛する人を過去のものにしたこのエンドを気に入ってるのでここで終わりにします。
モチーフは七夕伝説と迢迢たる牽牛星の詩
イメージ曲は流星群/鬼束ちひろ、月光浴/柴田淳
他設定など:コード520(中国語で愛してるの意味)
シャオメイ(中国語の小妹、自分よりは年が下とみられる女性に対して使われる)
シャオメイの本当の願いはカリファが自由に生きて、白くて綺麗なドレスを着ること。カリファの願いはずっと一緒にいること。
大妄想を吐き出せなくて辛かったので大公開。
はなればなれ
11/16/2024, 12:30:04 PM