明けてしまうのが惜しい夜のことを「アタラヨ」というのだという。
漢字はどう書くのと聞いたら、彼はおもむろに私の手を取った。それから先細りのひとさし指で、私の手のひらの上に、その字を書いてみせたのだった。
「こう書くんだよ、わかった?」
そんなふうに問われたけれど、私は肌にふれる彼の体温ばかり気にして、せっかく教えてくれた漢字をまともに見ちゃいなかった。そのせいで、どんな漢字だったか思い出そうとしても、まるで思い出せない。
あのときちゃんと聞いておけばよかった。辞書をひけば正しい漢字が書いてあるんだろうけど、彼から教えてもらわなければ意味がない。けれども彼が私に「アタラヨ」という言葉を教えてくれたあの夜は、たしかに明けるのが惜しい夜だった。
いまはどうだろう、わからない。彼が隣にいなければ、朝を朝とも思えない。だから今日も、いつかの体温の記憶を抱きしめながら、目を閉じるのだ。深い深い夜の底で、いつまでもあなたを想っている。
【テーマ:ミッドナイト】
1/26/2026, 11:58:24 AM