「お金より大事なものなんてないわよ、って
言ってやったの」
目の前の女は明後日の方向を
見つめながらそう言った
結婚2年目のハイスペックな夫からのプレゼントは
慰謝料付きの不倫からの離婚だったそうだ
「言葉に重みがありますね」
「あんなに愛してるって言ったくせに……
人の想いなんてペラッペラ
結局お金が1番信用できるわよね、
たんまり貰ってやったわ
あ、ここは私が持つから
もっとたくさん食べて頂戴」
目の前に運ばれてきたのは
プリンアラモード
ガトーショコラ
レアチーズケーキ
あんみつ
わらび餅
統一感のなく並べられたスイーツたちは
まるで彼女の心模様のようだ
「さすがに、こんなに食べられないです」
「だよね、ごめんなさい
ちょっと最近ヤケになってて」
目線が落ちたせいか目尻のシワが深くなる
ファミレスでヤケになるなんて
余程参ってるのだろう
私がどれから手をつけようか戸惑っていると
彼女はふとフォークでプリンをすくい、
私の口元へ運んできた
黙って口を開け、それを受け入れると
彼女はどこか寂しさが滲むほほ笑みを浮かべた
「ほんと、馬鹿な男と一緒にいたもんだわ」
「……あの、すごく言いにくいのですが
あと3分でお時間になります」
「あら、もうそんな時間?延長してもいい?」
「もちろんですが……どのくらいでしょうか?」
「このテーブルの上が綺麗になるまで」
彼女は悪戯そうににっこりと笑い、
そこから手際よく
フォークを私の口元へと運び続けた
私は黙って受け入れることしかできなかった
今、目の前にいる人を慰めるには
私の人生経験は未熟だったから
下手なことを言って傷をえぐりたくなかった
「本当にお金が1番大事だったら、
こんな気持ちになってないのにね」
ポツリ
と雨が降り始め、
女の目元が窓の外の街灯に反射して煌めく
こういう人の心にどうやって寄り添えばいいのか
今夜、マニュアルを見て
先輩に確認しておこうと思いながら
私はひたすら甘味を味わうことに徹した
3/8/2024, 11:45:26 AM