道端にコンニャク落ちてた

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テーマ:『どうして』


 私のすぐそばを、色とりどりの寿司が流れていく。握りに軍艦、揚げ物やスイーツまである。
 少しすると初めて見るネタも回って来た。ポテトチップスに駄菓子、漫画本にハンドクリーム。あっ、スマホの充電器もお皿に乗ってやってきた。
 
 そんな魅力的なレーンがある横、私達が囲んでいるテーブルの中央では、もうもうと上がる煙の中で汗だくの男が手際よくもんじゃを作るという光景が繰り広げられていた。


 

 どうしてこうなった―――


 
 

 遡ること一週間ほど前。知り合いが運営する小さな回転寿司屋が閉店する知らせを聞いた。
 その店はそこそこの田舎にあって、最近になって車で十数分で行ける場所に大手チェーン店が建ったらしい。それで客がそっちに流れてしまって売り上げが激減し、なくなく閉店する決断をしたとのこと。

 私も昔はよく行っていて、いつ訪れても地元の人々が温かく迎えてくれた。客も店主もアットホームすぎるけど、それがあの店のいいところでもあった。

 閉店してしまうなら最後にもう一度行ってみようと店主に連絡をしたところ、どうやら週末に最後の営業をするらしい。ぜひ来てほしいと言われ、二つ返事で約束をした。
 店の雰囲気がいいだけでなく、寿司も普通に美味しいのでとても楽しみにしていた。




 そして当日。




 「何だこれ」


 店の扉を開いた先に広がっていた光景に、私の思考はピタッと止まってしまった。
 店内は人で溢れかえり、様々な音や匂い、話し声でひしめき合っている。あるところでは酒が所狭しと置いてあり、またあるところでは花束が山積みになっており、さらには銅鍋から何かを掬って配っているところもあったりで、もうシッチャカメッチャカになっている。
 
 棒立ちの私の前を子供達が走り抜けていった。誰かが私のことを手招きしている。誰かは知らない。ホントに初対面。
 私は手招きをした人物の方へと向かった。その短い間にも寿司屋らしからぬものがあるのを視界の端に捉えていた。じゃらじゃら音がするのは麻雀をしているテーブルがあるからである。

 私がテーブルにつくと、あっと言う間にそこの空気に取り込まれてしまった。温かくて、優しくて、大きなものに包まれるような安心感によって、これ以上ないほど早く打ち解けていたのだ。
 店主にも挨拶を済ました後、知らない顔を紹介されたあとすぐに打ち解け、また新しく紹介されては打ち解けを繰り返していた。
 店内の人数は増える一方。また誰か新しく来たらしい。入店した男性の手にはなぜかホットプレート。

 その男性は私のいるテーブルにやってきた。この店の近くでもんじゃ焼きをしている方なのだそうだ。今からご馳走してくれるらしい。……えっ、いまここで?



 
 ―――そして現在に至る。
 
 ここまでの経緯を振り返ってるうちにもんじゃが出来上がっていた。寿司屋で食べるもんじゃは、美味しいけどなんだか不思議な感じだ。
 私がアツアツのもんじゃを食べている真正面では、男性がもんじゃを取り分けて回転寿司のレーンにせっせっと乗せていた。レーンにはもんじゃの他に同じ絵柄の雀牌が4つ流れている。すぐ後から変身ベルトが乗った皿が追いかけていた。

 隣の席からはこっちにももんじゃをお願いという声が飛び、あちらの席ではカラオケが始まり、向こうの席ではテーブルゲームで超エキサイティングしている。

 
 酒を少し仰ぎながらこうして辺りを見渡すと、自然と口の端が上がってしまう。



 ほんと、


 どうしてこうなった。



 

1/14/2023, 2:37:23 PM