流れ着いたメッセージボトル

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「きっと来年もこの桜を一緒に見ようよ、約束。」


一年前の今日、確かに交した約束は​────​──


「.........全く、あっさり破られちゃったな。」


────────守られることは無かった。


桜の木の前にぽつんと立つ墓の前にしゃがむ。
「...分かってたよ、君がこの約束を果たせない事なんて。」
その約束を交わした時点で君には既に僅かな時間しか残されていなかった。
余命宣告。日に日に衰弱していく身体。それでも必死に生を紡いでいこうと毎日笑顔で振る舞う姿。

「......分かってた、けど」
生きてて欲しかった。もしかしたら来年もまだ君は隣に居てくれるかも、なんて密かに願った僕の淡い期待まで砕いちゃってさ。
何も言わずに居なくなるなんて。この薄情者め。

小さく風が吹いた。桜ははらはらと静かに散ってゆく。まるで誰かさんのように。
少し滲んだ視界を上に向けて空を仰ぐ。
「あーあ、こんなに綺麗な桜を見られないなんて勿体無い!」
どれだけ願っても君はもう居ない。
どれだけ願っても時は戻らない。
仕方ないな、僕がそちらへ行くまでに目一杯堪能しといてあげよう。

「それじゃ一年後、また一緒に見よう。約束。」



#一年後

5/9/2024, 9:34:41 AM