いぐあな

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300字小説

たんぽぽ郵便

「境の山に凶暴な魔物が出たらしい」
 山を越えた街に行く郵便馬車の受付不可の知らせに、がっくりと肩を落とす。
 北の魔法学校を卒業し、この街で見習い魔法使いとして働き始めたのに、それを故郷の家族に知らせる手立てが無い。魔鳥を使った伝書郵便はお高いし、私はまだ転移魔法は使えない。
 せめて、この街に住んでいることだけでも家族に、幼馴染に伝えたい。うつむいた私の視線の先に、この地域特有の桃色のたんぽぽが映った。

 春の暖かい光の差す青空を見上げる。たんぽぽの綿毛を風に乗せて任意の場所に根付かせる、変わった固有魔法を持った幼馴染は元気だろうか。
 ふと気が付くと足下に桃色のたんぽぽ。
 風に揺れるそれに笑みが込み上げた。

お題「あなたに届けたい」

1/30/2024, 11:13:02 AM