ココロ

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気づくと一面麦畑に囲まれた一点に立っていることが分かった。時刻は夕暮れ時なのか、黄金色の海も空も、照らされた自分の体も赤く染まっている。ここはどこなのか覚えがない上に、何故ここに立っているのかも分からない。
とりあえずと思いつくままにこの辺りの住人を探すが、人も民家らしき建物も見当たらない。
いくら見渡しても赤く染まった世界が広がっている。


「おーーい!」
虚しくも広い空間に吸い込まれたまま、返してくれる声もない。
――なんだか気味が悪いな。でも、少し歩けば民家があるかもしれないし……大丈夫、大丈夫と自分を誤魔化しながら足を進めた。


◇◇◇


どれくらい時間が立ったのだろう、ずっと歩き続けているというのに、はじめ自分が立っていた場所と変わらない景色が続いている。
さすがに疲れてきた……。

ちょっと休もうと足を止めて、あれ、と不思議に思った。

進むことに必死で今まで気づかなかったが―――音がしない。
虫や動物の声、風が揺らす音、生き物の気配も何も。

ここにきて、はじめて背筋に冷たいものが走った。
何か得体の知れない世界に迷い込んでしまったのではないかと。
日が沈みかけているのだろう、最初来た時よりもずっと視界が悪い。

光が消えてしまったら、私は――――

ガサッと自分の真後ろ、すぐ近くで音がした。それを認識するのがはやいか遅いか、反射的に走り出した。
向かう方向など分からない。
止まってはいけない、少しでも足を緩めれば追いつかれてしまう。

どんどん日が傾き、世界が暗闇に塗り潰されていく。
完全に闇にのまれたら、と想像して戦慄が走る。
イヤだ!

はやくここから抜け出したい、その一心でただがむしゃらに走った。


「ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。」

5/30/2023, 2:32:34 PM