会った時から違和感を感じていた。
その違和感が何か気付いたのは、久し振りに会った友達と駅前のカフェに立ち寄り、彼が席に座る際に、かぶっていた帽子をテーブルの上に置いた時だった。
「あれ、これ俺のじゃん」
思わず声に出てしまった。
友達は、帽子と俺を交互に見て、
「お前のってゆーか、前回会った時、お前が俺にプレゼントしてくれた帽子だよ。忘れたのか?」
「プレゼント?…ホントか?かなりお気に入りだった帽子なんだけど。最近見つからなくなって…」
「おいおい勘弁してくれよ。それじゃまるで俺が盗ったみたいになっちゃうじゃん。…まあ、お前あん時かなり酔っ払ってたから、覚えてないのかもしれないけど…」
なんだか、気まずい空気が流れ出した。…いや、俺のせいか。
「なんかごめん。セコいこと言っちゃって」
「じゃあさ、こうしないか。この帽子はお前に返すよ。ただ、俺も気に入ってたからさ、俺がこの帽子かぶってるとこ、お前のスマホで撮ってくんないかな。そんで、後で俺にその画像送ってよ」
「…ん?どーゆーこと?それでいいの?」
「ああ。お前のお気に入り奪ったみたいじゃ気持ち悪いじゃん。でも、その画像を見ればさ、俺もその帽子をかぶった気になれるから」
「…そーゆーもんか?そーゆーもんなのか?」
「帽子ってさ、自分がかぶってる姿を見られるのは、鏡の前か写真くらいだろ。だから、写真を表示したスマホの画面を鏡だと思えば、今日も俺はこの帽子をかぶってるって思えるんじゃないかな」
「いや…でもそれは…お前、無理してない?」
「してないって。その代わり、お前のスマホにもその画像は残しといてくれ。で、たまにお前も見てくれたら、なんか俺もその帽子を持っている気になれるから」
「…なれる、のか?」
「なんだってさ、気の持ちようなんだよ」
気まずさは吹き飛んだ。彼のおかげだ。
楽しく食事をして、彼と別れた後、俺はネットでこれと同じ帽子を検索したが、見つからなかった。
限定品だったかな。それなりの値段だったしな。
スマホを閉じる前に、ついさっき撮った友達の写真を表示する。
俺のお気に入りの帽子をかぶって、満面の笑みでポーズを決める彼。
ホントにこれで良かったのかな。
そんな想いが心を過ぎったが、彼の笑みを見ているうちに「気の持ちようなんだよ」という彼の言葉を思い出して、俺はそっと送信ボタンを押した。
1/28/2025, 11:46:29 PM