あると

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【こんな夢をみた】


「こんな夢をみた」

 夏目漱石の代表作のひとつ、『夢十夜』はそんな一文から始まる。
 といっても僕は、その作品を読んだことなどない。短編だし、文章も読みやすいほうだから、読んだほうがいいんだろうなと思う。
 この前友人も、『夢十夜』の漫画版を読んでいた。横でちらりと見て、面白そうだなとも思った。

 けれども、僕は今の今までそれを読んでいない。
 けっきょく中途半端な好奇心なんてそんなものだ。少し面白そうだな、少し気になるな、というレベルの気持ちは、僕の中にいる惰性によって簡単に掻き消され、行動までに至らない。

 例えばそう。さっきから空を浮遊しているハンバーガーの群れがどこへ行くのかとか、今日いつの間にか学校のグラウンドにできていた50分の1スケール東京タワーが実際何メートルなのかとか、テストの途中でいきなり足がはえたあの消しゴムはどこへ行ってしまったのかとか…そんな日常的な些細な疑問は、全て疑問で終わってしまうのである。


 あと少しでいいから行動力がほしい。そうなればきっと、もっと感受性豊かでもっと積極的で意欲的な人間になれるだろう。………おや、なにか聞こえ…


ジリリリリリリ_____________ガチャン


 …今日の僕は、そんな夢をみた。


 頭に響く目覚まし時計の音で飛び起きた僕は、慌ててその音を止めた。


 

1/23/2024, 12:04:54 PM