白米おこめ

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人はなぜ月を綺麗だと思うのか。
夜空にぽっかりと浮かぶ白月を見上げながら、
マスクの下で感嘆の息を吐いた。

バタン、と車の戸を閉めてから数分。
空を走る雲に見え隠れする星々と月を見上げて、
玄関は横にあるのに、家に入れずにいる。
雨上がりの夜だからか、虫の音もせず、
耳鳴りが聴こえるほど静かな時間がただただ過ぎてゆく。

ひゅうと冷たい秋風が頬を撫でる。
秋と冬の境目、衣替えをしないままの服装で
身体が緩やかに冷えていく。


「秋風」と聞くと、左京大夫顕輔の句を思い出す。
百人一首の一つ、「秋風に」から始まるあの句。

…今からおよそ800年も昔の句。
私が立っているこの場所でも、誰かがきっと
私と同じように空を見上げて月の為に息を吐いただろう。


月の光を背に受けながら、玄関に手をかける。
家に帰ってもなお、私は懲りずに窓から月を見るのだろう。
それを知っていながら、
私は名残惜しくドアに欠けていく月を見つめ
秋風と手を繋いで玄関のドアを閉めた。

「秋風」 白米おこめ

11/14/2024, 11:38:49 AM