ゆかぽんたす

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見送りはいいよ、って言ったのに、ケイくんは駅まで来てくれた。改札の中までついてきてくれて、列車が来るまで荷物も持ってくれた。
「……ありがとう」
本当にそう思ってるけど、今のあたしの言い方は世界一ブサイクだったと思う。顔も、テンションも声のトーンも何もかも。これでしばらく会えなくなるって言うのに。なんでこんな可愛くない態度取っちゃうのかな。どうして素直になれないのかな。
「環境変わると体壊しやすくなるから気をつけてね」
「そんなこと分かってるよ」
「ならよかった」
にっこり笑ってケイくんは私の頭に手を伸ばす、のをまた引っ込めた。多分、頭なんか撫でたらあたしが“子供扱いしないで”って怒ると思ったからだろう。そんなふうに言わないのに。今日だけは、今だけはもう、別れを惜しんでただただ寂しい気持ちでいっぱいなの。それを簡単に口に言えたらいいのにできない。やっぱりあたしはまだまだ子供だ。
「あ、来たよ」
汽笛を鳴らせて列車が向こうから近づいてくる。あれに乗って、あたしはこの街を出て少し離れた地へ向かう。そこはきっと、時間的にも金銭的にも大人じゃないと気軽には来れない場所。あたしと3つくらいしか違わないケイくんがそう簡単に会いに来れるなんて思えない。それでも。
「元気でね。会いに行くからね」
ケイくんのその言葉が耳に沁みて、思わず涙が出てしまった。ぼろぼろと両目から溢れ出て、ケイくんの顔がうまく見えない。
「泣かないで。永遠のお別れじゃないんだよ」
そう言って、ケイくんは今度こそあたしの頭を撫でた。あったかくて大きな手が優しかった。
ありがとう。あなたがいてくれてよかった。あなたのこと、好きになれてよかった。きっとその気持ちを今なら言える。あたしは1歩ケイくんのほうへ踏み出す。そして、頭2つぶんくらい大きい彼に向かってぐっと背伸びをして飛びついた。

6/20/2024, 10:39:23 AM