Open App

『夜景』

「そこには綺麗な花畑が広がっていて、なぜか懐かしい気持ちになりました」

うっとりとどこか遠くを見るように、その人は言う。

私は返事をせず、夕飯を並べる手を止めない。

窓の外に広がるのは、湿度でうっすらと靄がかった夏の夜景だ。雑居ビルの隙間に薄汚れた路地裏が見える。花畑など、どこにもない。

「はじめはね、腹が立っていたんですよ。蝋燭を渡したくらいで、こんなことになるなんて思わないじゃないですか」

もう一度窓を見る。
夜景の手前、照明が反射して硝子に映し出された室内は、私の他に誰もいない。

「でも、あんなに綺麗な花畑を見せられたら、怒る気も失せてしまって」

私は返事をせずに夕飯を食べ始めた。

9/18/2024, 12:06:23 PM