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濃紺に染まりかけた空に雪が舞い出した頃、千代若はかじかむ指先を温めようと火鉢に擦り寄った。この江戸にも雪が降り始める時期になったのも風情か。庭師によって整えられた千代若の父の屋敷が雪化粧を纏う姿は圧巻である。

屋敷の障子がカタカタと寒風にあてられ、音を立てる。
こんな夜冷えするのなら下女に火鉢をもう一つ仕込ませるべきだったな、と千代若は悔いた。


寒くて書を読もうにも火鉢から離れられないでいると、外の木戸が開く音がした。

こんな時間に誰だろう、と障子を少し開け庭に目をやると、千代若のよく知る少年が寒さに凍えながら庭をかけてくる。
千代若は障子を開けながら彼に声をかけた。

「与次郎じゃないか。こんな時間にどうしたんだい。」

与次郎は息を弾ませ駆けてくるなり、草履を脱ぎ捨て縁側に駆け上った。

「いやぁ、今日そこの神社の冬祭りだっただろ?お前の顔が見えねぇもんだから、土産にと思ってさ。悪ぃ、ついでにさみぃから少し温まらせてくれ。」


千代若と与次郎は身分こそ違えど、この夏同じ十四になったばかりの良き友であった。
自室に招き入れ、二人火鉢の前に並ぶ。

「与次郎、きみがこんな時間に屋敷に忍び込んだと父上に知れたら」
「わーってるって。ばれねえように上手くやるからさ。そんなことより、ほら土産だ。どうせ"若様"は、いいもん食ってるんだろうけどさ。」

与次郎は袂から金平糖の入った袋をひとつ、千代若の手に握らせた。



「その呼び方、気に入らないからやめろと言ってるじゃないか。」


ふん、と千代若は鼻を鳴らし金平糖を一粒、口に放り投げる。

千代若は続けて三粒ほど、与次郎の口に捩じ込んでやった。



12/18 冬は一緒に

12/18/2024, 2:01:14 PM