「友香、俺たち絶対負けないから」
「私たちだって負けないわ」
友香は野球部のマネージャーをしており来週は春季大会予選の準決勝だった。相手は友香の高校と互角で友香の中学から付き合ってる春樹が所属していた。まさかの偶然だったが容赦はしないと意気込んでいた。
「友香さ、どういう対策打ってるとかさ知ってる?」
「え、知ってるけど」
「マネージャーだもんなそら知ってるよな…」
沈黙が続き嫌な予感がした。
「その作戦教えてくんね。無理言ってるのは分かってる。でも俺も3年でこの大会が最後なんだ。この気持ちお前ならわかるよな」
友香は困惑した。友香自身、3年間野球部のマネージャーをしてこのチームに思い入れがあるし最後は優勝して終わりたい。だからこそ春樹のどんな手を使ってでも勝ちたいという気持ちもわかる。春樹にも報われてほしいと思ってる。しかし現実はそう甘くない試合が終わるとどちらかが涙しうなだれる。ここまで勝ち上がってきて嫌というほど目にしてきた光景だ。もし友香たちが勝った時、春樹のそんな姿を見るのは辛すぎる。
だがそれでもできない。今までの野球部の練習が脳裏に焼き付いていた。どろどろになりながらもすべりつづけて茶色に染まったズボン、ヘトヘトなはずなのに監督の地獄のノックに雄叫びをあげて喰らいつく。全部この大会のために頑張ってきた仲間たちの姿が。
「ごめんね、それは無理」
ぎこちなく笑顔を作って友香は言った。
12/10/2024, 2:39:40 PM