NoName

Open App

ここに残そう。君が本当に死ぬ、その日が来るまで。
「呪いがかかってるんやってさ、うち。なんか、不死?みたいな。それで、記憶の継承の条件が、生きてる間にあんたと1回会っとくことらしいんや。」
せやから、これからよろしゅうな。
そう言って笑った、妖祓いの家系に生まれた彼女は……もう、私のもとへは来ない。「来ることができないように、」私がそう仕向けた。例え同じ時間を繰り返す事になっても、君の中に死の記憶が残らないように。

「その不死は、どこで効力を無くすんだ?まさか、永遠に繰り返すつもりではなかろう。妖を滅ぼすために、先代から受け継いだものであるなら。」
「あー……それなあ。なんか、殺してくれる人を決めて契約しなあかんらしいわ。普通は婚約者とかに頼むみたいなんやけどな。うちはあのクソ親父の言いなりになりたない言うて、もう婚約破棄してしもうたしのう。」
うーん、と彼女は首を捻った。それから、石段に腰掛ける私を見やって、「あ、」と小さく声をあげた。
「なあ、それもあんたがやってくれん?」
「…………え?」
困惑した。それはつまり、だって、そういうことだ。いづれ訪れる未来で、私は……
「だって、どうせ記憶を継ぐために会いに行かなあかんもん。ちょうどええやろ?」
妖を殺すために、彼女はその呪いを受けたはずなのに。それが家業であって、彼女にとっての不本意だったとしても……その解呪を同じ妖に頼むなんて。
わからなかった。だが、信頼されていることが、素直に嬉しかった。
嬉し、かったんだ。君が、私を選んでくれたことが。
「……君が、いいなら。」

過去の私はその日、彼女と契約を結んだ。そして、彼女は一回目の死をその身に受けた。私は、彼女に会うことがないよう、隠れ通した。彼女は2度目の死を受け、記憶を継ぐことなく、死の呪いのことも忘れることなった。
…………それでいい。私が君を殺す未来が消えずとも、その未来の記憶が、永遠に彼女に訪れることはないのだから。



2/12/2025, 11:25:04 AM