彩士

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ピピピピピピ
ガタン、バサハザハザ、ゴン
「うっ、いったぁ」
床にたたきつけた頭を撫でまわしながら、身体を起こす。はぁ、今日も朝が来てしまった。
仕事だー。準備しますか。
洗濯の山から今日来ていく服を引っ張り出して、自然と着いてしまった服の皺を手で伸ばす。意味のないことだと分かっていても、人様の前に出るので気にしなければならない。
ボサボサの髪をブラシで大雑把にといて、今日はポニーテールにしてみる。コンセント差しっぱなしのヘアアイロンで軽く巻く。
いつもと同じメイクをしっかりして、鏡で確認したらよし!完璧!

酒類とほんの少しの食材しか入っていない冷蔵庫から、賞味期限が少しで切れる納豆とハムを取り出して、口に突っ込む。
時計を確認したら、やばい、もう出なきゃ!
玄関先に置いている仕事鞄をパッと取って、仕事先へ急ぐ。
「おはようございます」
「お!カナちゃんおはよ」上司が言った。
「今日締め切りのやつ順調かな?よろしくね」
「はい。なんとかできそうです。頑張ります」
私の上司は歳が近くて、優しい人なのでとても仕事がしやすい。同じ女性というのもあって、困ったことも相談しやすい。
今日は絶対に残業できない理由があったから、頑張って終わらすことができた。
何があったかというと、私の幼なじみが来る日なのだ。
昔から家族間で仲の良かった幼なじみは、一人暮らしをするようになった今でも交流が続いている。

「ただいまぁ」ドアをガチャリと開ける。
「おかえり〜!」
うわあ、私の家にもう入り込んでいた。
「鍵、持ってたっけ?」恐る恐る聞いてみた。
「いや、おばさんが使っていいよって言ってくれたの」
おかあさん、何してんだ。
それにしても、私の家が私の家じゃなくなっている。
溜まりに溜まった洗濯の山も、洗いそびれたお皿も、長い間掃除をしないために溜まった埃も全部がなくなっていた。
「また掃除してくれたの?ありがと」
「だってぇ、汚いじゃん?勝手に家に入るんだし、これぐらいはしとこうかなってね」
パチン、とウインクをしてきた。よくそんな余裕があるもんだ。
「ていうか、つい二か月前にも掃除したのになんでこんなことになるの?気をつけないと、カナが埋もれちゃうよー?」
はい、すみません。どうも片付けが苦手なようで……。
「気をつけます、いつもありがとうございます」
「はい、頑張って!話変わるけど、今夜のおつまみを作ってみました!さあさあ、酒の肴にして、飲みましょうや」
「いぇーい!飲も飲も!私はなんとワインを買ってきましたー!二人で一本飲もうぜい」
やったやったと二人で騒ぎながら、日々の疲れを発散する。これが私の当たり前の生活。

7/9/2023, 12:10:20 PM