しるべにねがうは

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永遠に

「とある宗教じゃ永遠の愛を誓うらしいやん」

そんなものは存在しない、と吐き捨てる。
幻想だ。空想だ。ありえない。大体のやつが誓っておいて別れるし。随分短い永遠だ。
湿気でうねる髪が鬱陶しい。

「随分ご機嫌斜めですわね……クッキー食べます?」
「あんたがいると電子機器が狂うんよ、どっかいけや」
「残念ながら尾上君が此処にいるといって聞かないもので」
「そりゃ現代日本人がゲームテレビパソコン無しジャンクフードも菓子も無しの生活いきなり強いられりゃそうなるわ!!」

蛸嶋家は外見こそ日本家屋だが、家の中はかなり魔改造というか現代的や。近未来化してるといってもええやろう。
所狭しとコードが走り、空調完備。パソコンのために。
ついでにドリンクバーと片手で食えるカロリーバーと糖分補給の菓子とカップ麺やレトルト食品なんかが死ぬほどある。
災害に見舞われようが3年ほど生きられる程度の備蓄がある。
点検も欠かさない。Wi-Fi完備。

対して柳谷邸。蛸嶋邸と同じく古き良き日本家屋。
内装も日本家屋。エアコン無し。ストーブはある。
こたつもある。キッチン周りが最近すこし使いやすくなった。
テレビがない。スマホは辛うじてある。何代前かは知らん。
その程度である。石蕗はんも笹本はんもレトルト食品に対してあまりええ顔せえへんから柳谷柳子もあまり買わへん望まへん。
おやつは和菓子である。お茶とよく合う。
圏外。

結論。現代日本男児にはちょっと、いやかなり、たりひん。娯楽が。ジャンクが。雑味が。
蛸嶋邸が理想的すぎたとも言う。

「尾上君の行動を制限する権限は私にはありませんわ」
「悪いこと言わへんからテレビ買ったれ、ゲームとかさ…」
「石蕗に聞いてみないとなんとも……」
「やからて此処に居座るな」
「Wi-Fiもよくわかりません」
「お前本当に現代人か…?」
「あと20分程度で気が済むと思うので…」
「此処はキッズお遊びスペースやあらへんぞ」

てっきり尾上だけやと思っとった。この家に来るのは。
普段の生活の話を聞いて出てきた『これ現代人には辛いだろ』の羅列で憐れんだらそうなっとった。ええわうち遊びにこい、から〇〇日みに行っていいすか…みたいなLINEがきて、都合がつく日は漫画を読んだりしとる。あいつ漫画読むの初めてっつって本棚に食いつく勢いやった。そういや柳谷邸にも漫画の類はない。両方厳しい家だったんやな。絵本も読んだことねぇっつてよ。

今は妖怪人間読んどる。スポンジが水を吸収するが如くで読み慣れないにしてはスピードがはやい。次何に食いつくか楽しみである。
にしても、書斎というか本スペース。あそこなら作業部屋からもそこそこの距離があるし柳谷女史の電気混乱体質(適当命名)もマシか?

「アンタはなんか読まへんの」
「漫画は頭が悪くなると止められていまして」
「何時代の人間だよ」
「夢中になると護衛ができませんし」
「…たまには息抜きせぇ、倒れるやろ」
「お気遣いありがとうございます、ですが無用ですわ」

ざわり、と空気が揺れる。
嘘だろこの家そこそこ強い結界はってあんだぞ。

「早速仕事のようですので」

見れば書斎方向の空間が歪んでいる。いやいやいや空間支配系かよ面倒くさい。地味に貴重な書物から資料からあんだぞうち。
そこからか。そこから漏れたか呼んだのか読んだのか。それだって油断なく封殺の術が施してあったろうが。
オバケ吸引体質とは聞いてたが厄ネタ吸引体質の間違いじゃねぇんか。今から収集かけて対空支人員と結界解除と厄ネタ封印人員手配してもらうとしてその間にあいつが喰われない保証がない。
とにかく連絡を、と思えば既に鯉口を切る柳谷女史。

おい待てまさかそれを今から振り回す気じゃ、

「そういえば永遠の愛についてでしたっけ」

そんな話してたなそういや!!今どうでもいいけど!!

「私はあると思いますわ。あると信じていると、それだけで力が湧いてきますし、素敵ですし」

穏やかに笑う。目を伏せたまま、視覚以外の感覚で相手を捉える。
一呼吸。

「何度挫けそうになっても、心が折れても、立ち止まって動けなくなっても。また立ち上がった人がいる。その人達が繋いだ道が私達に繋がっている。だから、既に永遠の愛は証明されている。私はそう思っていますのよ」

ごとり、と書斎の方から何か重いものが転がる音がした。
続いて「いってぇ!!」と尾上の声。無事か。
それはそれとして。

「柳谷女史、家の中で刃物を抜くな」
「緊急事態でしたし」
「しかもそれ四儀以上の術師しか携帯許可でえへんやつやろ!!んなもんぶんぶん振り回すな!うちかて結界あんやぞ!真っ二つだわ!」
「だ、だって尾上君の安全と事態の収集にはあれが一番てっとりばやかったんですの!!」
「問答無用や、そこに正座ァ!!」

2時間後。

「蛸嶋君お邪魔しました〜、なんか銅像?これ落ちてきたけど大丈夫なやつ……何してんのお嬢」
「お説教は終わりましたが足が痺れて立てません」
「漫画貸すからお前らしばらく来んな」

結界が修復された頃、「もう大丈夫だから遊びにこい」ってライン貰うまでしょげる2人がいたりする

11/2/2024, 1:25:17 AM